きみは無垢な誘惑者(3/4)
櫂に抱きしめられた私の目に映るのは、色鮮やかに咲き誇る大輪の黄色いバラの花。
その花は凛として、だけど同時にどこかはかなく思えて。
(まるで、櫂みたい‥‥)
愛しい恋人の腕の中で、私はぼんやりとそんな事を考えていた。
「‥‥ゴメンね」
私の肩に顔を埋めた姿勢のまま、櫂が口を開く。
「仕事だって、分かってるんだ‥‥‥アイツらだって‥‥」
「櫂‥‥あ‥」
体を起こした櫂は、もうすっかり『いつもの櫂』で。
「さ、そろそろ行かないとホントに怒られるよ?」
「‥‥‥‥‥」
抱きしめていた腕を解いてニッコリ笑う櫂の首に、今度は私からギュッと抱き着いた。
「え‥‥ええっ! ちとせちゃん!?」
「‥‥‥‥櫂の、バカ」
「!」
こんな時に、私にまでそんな風に笑ったりしないで。
ちとせちゃんが撮影現場へ向かって逃げるように走って行った後。
俺は、まだ呆然とその場に立ち尽くしていた。
*illstlation:白夜*
(嘘だろ‥‥? この俺が、まさかちとせちゃんに襲われるなんて‥‥)
だけど、さっき自分の唇に感じた彼女の熱は幻なんかじゃありえない。
「‥‥やられたな」
秋の風にそよぐバラがサワサワと音を立てて揺れる中、肩をすくめて苦笑する。
俺がからかうとすぐに真っ赤になっていた、あのちとせちゃんが。
この仕事が決まってからずっと抱えていたモヤモヤした感情は、いつの間にかすっかり消え失せていた。
だけどね、ちとせちゃん。
「やっぱり男としては、されたままってワケにもいかないんだよね?」
そういうワケだから、さ。
「これから、覚悟しておいてね」
今さらイヤだ、なんて言わせないからね?
☆黄色いバラの花言葉 『嫉妬深い』☆
→あとがき
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