迎春花(3/4)
「…べ、別に……。ホラ、俺、最近まで中国の歴史小説にはまってただろ?……あの花はもともとあっちで有名な花だから……」
しどろもどろになっている龍が何だか可愛く思えて、私の顔にも笑みが浮かぶ。
「ちとせ、何笑ってるんだよ」
龍が照れた様な、拗ねた様な目で私を見る。
普段、トロイメライのリーダーでいる時には見られない、プライベートで私にだけ見せてくれる素顔の龍。
そんなちょっとした『特別』が嬉しくて、私は龍の腕に自分の腕を絡めた。
「ちとせ?」
「ねえ、龍。黄梅が中国で有名ってどうして?」
わざと上目使いで顔を覗き込むと、龍は目をそらして咳ばらいをした。
「………中国の暦だと春節って言って、今月半ばが新年にあたるんだよ」
そんなニュースを少し前に見た気もする。
ちょうどその頃に咲く花だから、「春を迎える花」で『迎春花』って言われてるんだ。
まあ、春の『象徴』だな。
そう言って龍は、目を細めて私を見る。
『あ、私と同じ事思い出してる』
何となく、そう思った。
春。
私と龍が付き合い出したのも、去年の今頃だった。
春、夏、秋、冬。
すべての季節を龍と過ごして、また二度めの春がやって来る。
公園からの帰り道。
「龍、また来年も一緒に見ようね」
龍は、そう言った私の頭を気が早いな、と笑いながら少し乱暴になでてくれた。
→あとがき
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