夢の続きは君と二人で(3/4)
無事に(?)お土産のヌイグルミを買い終えてから。
私達はメキシコの家庭料理が食べられるレストランで昼食を済ませて、今度はレトロな高架鉄道に乗って移動した。
そしてメインゲートにほど近い場所に建ち並ぶ、いろんなお店を覗いてみる。
中でもガラス工芸品のお店では、実際に作業している職人さんの仕事ぶりを見学出来たりして時間はあっという間に過ぎていって。
「ああいう手先が器用な人って憧れるよな〜」
日が傾いて大分人が少なくなったメインストリートをのんびり歩きながら、櫂の言い草に私は思わず吹き出した。
「櫂だって、天下のトロイメライのベーシストでしょ。充分器用なんじゃないの?」
「え?…ちとせちゃん。何々?…そんな事言って、さてはまた俺に惚れ直しちゃった?」
「な……!」
『何言ってるの』と続けようとした唇は、軽い口調とは裏腹の櫂の熱い視線に遮られてしまう。
「え……あの…カ、イ…」
顔を赤くして口をパクパクさせる私の手を取ると、櫂はその手に嵌めてある指輪にそっと触れて、そのままグイッと引っ張られた。
そして櫂は、私の額に不意打ちでキスを落とす。
「……」
(こんな…所、で……!)
「大丈夫。ほとんどの人は水上ショーの方に行っちゃって、俺達の事なんて誰も見てないよ」
いつもより低い声で、櫂が囁く。
気付けば辺りはすっかり暗くなっていて、パーク内のアナウンスでも水上ショーの夜の部がもうすぐ始まると繰り返していた。
「ちとせちゃん、この指輪ずっとしてくれてるよね」
私の手を取ったまま、櫂が言う。
「……うん」
ホワイトデーに、櫂がカクテルと一緒にプレゼントしてくれた指輪。
指輪はもちろん、選んでくれた櫂の想いが何より嬉しかったから。
その時、少し離れた場所で水上ショーの始まりを知らせる花火が上がった。
「始まったな……じゃあ、こっちもそろそろか」
「櫂?」
花火を見上げて呟いた櫂は、まあ見ててと私達の目の前に広がる何もない広場を指差した。
次の瞬間。
広場のあちこちから、一斉に幾筋もの水が噴き出した。
そしてその水は、ライトアップされて青や緑、黄色や赤と次々に色を変えていく。
私は、もう言葉もなく見つめる事しか出来なかった。
「夢の国のフィナーレだね」
櫂が私の肩を抱き寄せながら言う。
「ショーばかりが注目されがちだけど、こういう穴場スポットもあるんだよ……このサプライズは、大成功かな?」
ズルイ。
何でそんなキザなセリフをサラっと言えちゃうの?
「………終わらないよ」
「え?」
私の言葉に、櫂はキョトンとした顔をする。
「ショーが終わって忙しい毎日に戻っても、櫂はずっと私の側にいてくれるでしょ?」
櫂の顔がみるみる赤くなる。
「……参ったなあ。ちとせちゃんには敵わないや」
そう照れた様に呟くと、突然ガバッと私を抱きしめた。
「きゃあ……ちょっ……櫂」
「そんなかわいい事言うなんて反則だよ……罰としてしばらく俺に抱きしめられてなさい」
「………」
耳元で響く櫂の声はどこまでも甘くて。
私は櫂の温もりを全身で感じながら、ゆっくりと目を閉じた−。
→あとがき
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