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帰り道
黄昏時のよく似合う風景。
それがどうにも自分の故郷を思い出させ、立向居は懐かしい気分に包まれた。
再びこの沖縄の地に戻ってきたということは、彼との別れの時が近いということだ。
水上に校舎を構えるこの学校は、建物を海から高架に突き出している。
その下、誰も来ないその場所で、立向居は今、綱海と二人きりで居た。
波の音のみが響くそこには、二人の会話すらない。
「…そろそろ、ですね」
その問いに綱海は答えなかった。
らしくない、と立向居は思った。
日が沈んでしまう前に、キャラバンは出発する。
日没後すぐの便で、この島を離れることになっているからだ。
「…そろそろですね」
再び立向居がそう言う。
その声に力はない。
「心配すんな、また会えるさ」
いつもより力なく彼が言う。
「…会えるさ。海はどこまでも繋がってるからな。俺のとこと、お前のとこ。海が繋いでくれてるから」
潮風が二人を包む。
そよめく綱海の髪が、僅かに沈み行く陽を反射して、立向居は目を細めた。
はたはたと、揃いの白い半袖が揺れる。
それが酷く似合って見えて、そして、これからはもうその姿を見ることが敵わなくなるのだと気付いて、立向居の小さな胸が痛む。
なぜ、そんな気分になるのか立向居は判らなかった。
共に戦ってきた仲間と離れるだけ…では、締め付けられるような胸の痛みの説明がつかない気がした。
「お前も、俺と同じように思っていてくれたら嬉しいんだけどな」
言った綱海の言葉が理解できなくて、しかし形容しがたい気持ちで心がいっぱいになってしまうような気がして、立向居は泣きたい気持ちになった。
了
ついった診断お題の「高架下」「半袖」「無自覚」(確か)より。