おわりとはじまり


闇が深く沈む夜半。
廃寺の一室で目合いあうふたりの男女の影。

静まり返り虫すら鳴かない外とは対照的に、艶めかしい男の吐息と女の淫靡な嬌声が部屋に響いていた。

「あ…、ぎん、ちゃ…はあ、ぅ」

銀時は***の両足を割り開き、さんざん時間をかけて解した中心に己の欲望を押し込んでいった。熱いそれはまるで其処があるべき場所かのように、膣内へ容易に入り込んでくる。
何度体を重ねても銀時の熱に慣れることはできず、ゆるゆると内側を確かめるように動かされるそれをきゅうと締めつけ、甲高い声をあげた。

「っう…ああぁ、」
「……っ、オイ…きもちーのは分かるが、んなでけェ声だすなっ」
「そっな、ああっ…っひ」

口を塞ごうにも両手は大きな手で布団の上へ縫いつけられていて自由に動かせない。だからと言って口を閉じるのも不可能に近かった。唇を噛み締めればなんとかなるのかもしれないが一度噛み切ってしまった時、治るまで顔を合わせる度に銀時が顔をしかめるのを見てしまい、噛み締めるのは意識的にしないようにしていた。

「人の話しきいてんの***ちゃん…っそれともなに、野郎共にえっろい声聞かれてーの?オカズにされてーの?」

黙れと言う割には抽挿は収まるどころか、次第に打ち付けるように激しくなっていく。媚肉を劣情で膨れ上がった熱の塊で擦られ抉られる度に、はしたなく開く口から堪えきれない喘ぎが零れていく。

「しゃーねーなぁ」

腰の動きが止みぐっと顔が近づくと、銀時の汗で湿った唇と、零れた涙やだらしなく垂れた涎で濡れた***の唇が重なる。
上唇、下唇、舌の順に銀時の唇が触れ、軽く吸われる。小鳥が啄むようなそれは擽ったくて照れくさくて思わず唇を引き結んだ。

「なに閉じてんの、口開けろ。お前好きだろ、こーいうキス。それに、いつもみたいに舌突っ込んで声抑えてやっから。ほら」

これからする事を平然と言ってのけ、さらに催促までしてくる銀時に恥ずかしくなって、言うことを聞くどころかそっぽを向いた。
このまま催促に従えば、銀時の行為全てを自ら恥じらいなく受け入れ肯定している、そう取られてしまうのが堪らなく嫌だったから。
そんな***の心中なんてお見通しな銀時は、顎を掴み視線を合わせると厭らしく笑った。

「ドSの前で素直になれないドMの末路、知ってっか?」
「んん…っ」

閉ざされた唇を、まるで陰唇を愛撫するかのように、時折口づけを交えながら舌で丹念に舐め上げてくる。それもしつこく。

何それと聞きたい気持ちを抑え、開いてやるものかと意地を張り空いた手で肩を押せば、顎を掴む手とは反対の手が胸元を這った。

「―――んッ!」

やわやわと下から上へ乳房を揉み上げてくる。でもそれだけで、触れて欲しくて勃ち上がった中心には一切触れてこない。そんな意地の悪い焦らしに切なくてたまらなくなり、繋がった秘所が勝手に銀時を締めつける。
ただでさえ狭い肉壁がぎゅっと密着し自分を貫く欲望をより感じて、どっと蜜がふたりの隙間を縫って零れた。

「――っ!」

尻へと伝うそれに羞恥で視界がぼやける。

「――は…っ、オイオイそんなイヤらしい誘い方、…俺ァ教えた覚えないんですけどね」

泣きてーのはこっちだよ。お前焦らしてんのか自分焦らしてんのか分かんなくなってきてさー。だってこれ挿入れたまんまだよ。ぐじゅぐじゅにとろけたナカに挿入れてるだけとか地獄だよ。
なんて恨めしそうに零される。しかし普段は身に余る快楽を銀時に与えられ、されるが儘に流されているだけの***にしてみれば、こんな風に焦らされるのは初めてだし不可抗力だ。

それでも一向に変わらない愛撫。顎を掴む手が反った喉元を撫で鎖骨を唇が、舌が這う。反対の手は下腹部まで下がり足の付け根、秘所ぎりぎりを撫でた。
ゆっくりとした緩慢な動き。壊れ物を扱うような手つきに心は満たされても、気持ちよくなる為の刺激には全く足りない。
切なくてもどかしくて我慢の利かなくなった***の身体は、無意識に快楽を求めて腰を揺らした。

――ぐちゅ、くちゅくちゅ

繋がったそこから聞こえた音で自分がしたことに気がつき、息を呑む。
恐る恐る目の前の男を見れば、楽しそうなしたり顔。一気に全身が火を噴く勢いで熱をもった。

「***ちゃん、素直になって銀さんの言うこと大人しく聴きなさい。そーしたら耐え兼ねて自分から腰振るよーな好色で淫乱なお前のココ、気の済むまで突きまくってよがらせてやるからよ」

“好色で淫乱”その言葉に顔を見ていられず、羞恥心と一緒に込み上げた涙が瞑った目尻から伝っていく。恥ずかしくて死にそう、それ以上に虚しくて悲しくて仕方なかった。

ふたりの心は重なってなんていないのに、快楽を貪る身体が酷く浅ましく、汚らわしくて。

身体を重ねる以上、好きでもない男に脚を開き、快楽に溺れる尻の軽い女だと思われるのは仕方がないことだ。でも、それでも残った欠片みたいな意地が、自ら求めている様を見せたくないともがいていた。だから催促されても、従順にそれを受け入れきれなかった。

――好きだから。
銀ちゃんが、彼だけが好きで好きで堪らなくて心の中に居座っていて、銀ちゃんの全てを独り占めしたくなるほどに愛しいから。

今までだって散々言われてきたが、浅ましく賤しい自分を認識させられ打ちひしがれているそこに、あんなにあっさり。深く突き刺さった。

こんな惨めな自分を見られたくなくて両手で顔を覆い隠すも、銀時の両手にあっさり引き剥がされる。
離してと暴れる間に両手は銀時の片手で頭上に固定され、残ったもう一方の手は安心させるかのように頭を撫で、髪を優しく梳き、耳朶を擽り、そのまま下降し頬に添えられる。嫌だと顔を背けようにも容易に阻止された。
浅ましい痴態を見て一体どんな顔をしているのか、快楽に従順に飼い慣らされていく様を見て何を思っているのか、怖くて見れない。そんな***の額に、目尻に、頬に優しく口付けられた。
ちゅ、ちゅ…と伝う涙を啜られ、最後に唇と重ねられる。ただ押しつけてくるそれに、***は応えるだけの勇気が持てなかった。

少しの間だけそのままだったが、諦めたように離れていった。同時に自由を奪っていた手も。

「***…」

沈黙に沈む室内に、静かに名前を呼ぶ声が響く。頬に添えられた手が、返事を求めるように涙を拭うが、臆病風を吹かせた***は身体を震わせるだけだった。

「…チッ、我が侭なんだよお前」
「……え、あっ」

舌打ちと不機嫌そうな声が耳に入り、銀時を見れば傍らに脱ぎ捨ててあった自分の帯を手に、***の口に猿轡の代わりにあてがい解けないよう後頭部できつく結びつけてきた。

「んんっ!」

急に態度を変えた突然の行動に一切対処できなかった***はされるが儘で、気が付けば鋭い目つきで見下ろされていた。
今まで幾度も交わってきたが、最中にこんな銀時を見るのは初めてだ。いつもは獲物を前に満足気にギラつかせているようなそれが、不満を含んだ苛つきを帯びているのだから。
知らない男を前にしているような恐怖に包まれる。

怖い、やだっ!!
こんな銀ちゃん知らない!!

口にできない言葉は唾液と一緒に帯に染み込んでいき、拒絶するために伸ばした腕は容易に捕らえられた。さながら蜘蛛の糸に絡め捕られる蝶の如く。
逃れられない現状にサッと頭が冷えていく。

「んな怯えた目で見んなよ。俺が悪ィことしてるみてぇじゃねーか」

この異常な状況で皮肉にも取れる言葉を吐いた。

銀時は突き刺さった己を一旦抜くと、***の腕を掴み仰向けだった体を乱暴に引き起こし、うつ伏せの体勢を強要してきた。身を任せることに恐怖を感じ起きあがろうと腰を浮かせれば、お腹に腕が回されぐっと腰を引き戻され四つん這いにさせられる。
太腿に触れる熱に拒絶の意で首を振れば頭を布団に押し付けられた。

「―――っん!」
「散々くわえ込んどいていまさらイヤだなんて通用するかよ」

銀時は陰唇を指で広げ狙いを定めると、強張っていつもより狭い其処に躊躇いもなく一気に押し込んだ。

「んんん――っ!」

優しさの欠片もない強引さに痛みまで感じ、ぎゅうと目を潰れば涙が零れていく。

「く、ぁ…クッソ、…お前、何が気に入らないわけ、っ俺には求めさせといて、…いつもいつも、く…狡いんだよ!」
「んんっ!」

手加減なく突き刺しては出ていき、中に己を刻みつけるかのように強く抉ってくる。いつもみたいに気持ち良くなんかない、まるで道具みたいな扱いに逃れようともがくも頭を押さえつける手が、腰に回された腕がびくともしない。
痛いはずなのに出し入れされる度、繋がった部分からは覚え込まされた痺れが勝手に生じる。その証が媚肉から溢れ出し内腿を幾筋も伝っていく。その感覚により虚しさが増すも、お腹に回った手がその蜜をすくい上げ陰核へと伸ばされる。腫れ上がって敏感になったそれに塗りたくられ、強く爪で弾かれた。

「ん゛んんん――!!」

直後にぎゅっと摘まれ立て続けに与えられた強い刺激に頭が真っ白になる。覆い被さった銀時の舌が熱い吐息と一緒に首筋から耳の裏へと這うのを止めに、呆気なくがくがくと身体を揺らし達してしまった。
乱暴な行為なのに気持ち良いのには適わなくて、思考を溶かされ抵抗する力も意思も、絶頂と一緒に削ぎ落とされていった。

「はっ…く、…***」

ぐっと腰を押し付け***の絶頂を堪能していた銀時は、頭を押さえつけていた手をどけ首に回すと、休む間を与えずそのまま抱き起こす。胡座を掻いたその間に***の身体がすっぽりと収まった。
自然と自身の体の重みで奥まで入り込もうとする欲望に、足を突っ張って腰を浮かそうとするも膝裏を掴まれ大きく開かされれば、抵抗もできずに奥の奥まで貫かれ、圧迫感に息が詰まり身体が仰け反る。

「――ん、ん―、」

自ずと銀時の胸板に凭れる体勢になり、目が合った。

乱れた髪の間から覗く快楽にとろけだした***の表情に、銀時は無意識に舌なめずりをした。






あの日の夢を見た

♭16/02/19(金)
♭24/05/11(土)加筆修正


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