小説 | ナノ
 


私がレイブンクロー生としてホグワーツに入学して6年目と3ヶ月が経とうとしている。そして遊び人と名高い、シリウスと付き合って3年が経つ。

私もシリウスも捻くれてるし更に私はプライドも高い。だからか私達を知っている人間は3年ももったことは奇跡に近いと言う。
確かに何度も浮気されたことはあるし、周りを巻き込んで大喧嘩したことも、嫉妬して束縛したこともあった。それに私とシリウスじゃ天と地ほどの身分の差があった。片やブラック家の御曹司、片やマグルと魔法使いのハーフ。純潔ではないことで彼の取り巻きにイジメられたこともある。しかしその度に何度泣いて何度怒って何度嘆いたことかわからないけれど、その後は必ず仲直りして愛を確かめ合ってきた。
シリウスも私もお互いを愛していると、そうだと思っていたのに。

これからもずっと一緒に居るのだと信じて疑わなかった。




*




「…別れてほしい」

シリウスの言葉に、ガンッ、と鈍器で頭を殴られたように頭部全体が痛んだ。
いきなりのことでとてもじゃないが話すことも声を出すことさえ憚られる。

「…実は1年前から真剣に付き合っているやつがいるんだ…。卒業したら結婚するつもりでいる」

「、は………な、によ、それ」

言葉が喉に張り付き上手く声が出せなかった。
シリウスが何か喋っているが聞こえない、聞きたく、ない。

手紙を使って授業が終わった後に使われていない教室に呼び出された。
今までシリウスにそんな呼び出しの仕方をされたことはなかったし、シリウスの性格からして手紙なんてものを使って呼び出すより直接言いに来るだろう。
3年も一緒にいるのだ、彼の性格がわからないはずがない。
嫌な、予感はしていた。

数ヶ月前から私によそよそしい感じだったし前より積極的に私に絡もうとしなかった。
でもそれは彼の悪癖が再発し私に構ってほしい合図だと思っていたのだ。彼は、シリウスは思っているより甘えたがりで寂しがり屋だ。だから浮気をし、私に怒られることを待っている。
怒られることで、嫉妬されることで愛されていることを確認するのだ。

それ故彼の言葉が信じられなかった。

「だから、××には悪いが別れさせてほしい。…××を愛してなかった訳じゃない、ただ、お前以上に守りたいやつが出来たんだ……」

「……今回もただの浮気でしょう…?怒らないでいてあげるからそんな冗談はやめて。…心臓に悪いわ」

声が震えた。
彼は本気だと頭の奥底ではわかっていた。
でも、他に好きな子が出来たからシリウスの幸せを思って身を引くなんて、そこまで出来た女じゃない。
一縷の望みに縋るようにシリウスを見上げた。
しかしシリウスは罪悪感からか、私の視線から逃れるように俯いたまま何も言わない。

彼の頑なな態度に心が傷付く。でも確信してしまった、もうやり直す気は無いのだと。
もう別れるしか道が無いのだと。

「ね、シリウス。私貴方のことが好きよ」

ずっと恥ずかしくて言わなかった本心が言葉となって唇からこぼれ落ちる。
ほんとよ、とか細い声でしかし念を押すように言葉を吐くしかなかった。
本当は別れたくなんかないの。
貴方とずっと居たいの。
馬鹿なこと言い合って、喧嘩して、仲直りしてギュッと強く抱きしめてほしいの。

シリウスは下を向いたまま何も言わない。

「私は、私は……別れたくない」

「貴方の隣に居られる特権を奪っていった顔も名前も知らない貴方の好いた女が憎いわ」

「でも、シリウスのことが好きだから貴方のことを思って身を引かなければいけないことも知ってる……」

思っていることを全てシリウスにぶつける。
彼はずっと下を向いたままだが聞こえているはずだ。
私の怒りと悲しみと切なさが。

「だけど一つだけ条件を飲んでくれたら、……別れるわ」

ここで泣くのは私のプライドが許さず、目に溜まった涙がこぼれ落ちないように眉間にギュッ、と力を入れるしかなかった。

「私は貴方のことを忘れる…。友達でもない、知り合いでもないただの他人として接するわ。……でもシリウス、貴方は私のことをずっと覚えていなきゃダメよ…」

とうとう涙が堪えきれず目からポタポタと頬を伝って流れ落ちていく。
弱々しく吐いた言葉に思うところがあったのか、ずっと俯いたままだったシリウスがゆるゆると頭を上げた。
そして苦しいのか切ないのか、はたまた嘲笑っているのかどうとでも取れる表情でぽつりと言葉を零した。

「……それが俺への罰か…」

お願いよ、シリウス。今からでも遅くないから全て冗談だと笑って。
私はシリウスの言い訳を怒りながら聞いてあげるわ。

だから、だから、

「……全て忘れてあげるわ」




(こんなことを言いたいんじゃないのに。もう戻れない)

title by 告別
2011.10.15



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