彼は輝いていた。 体から発光しており、見るもの皆を引き付ける。
彼は、王や支配者を意味する名前を付けられた。 特別な男の子。
「××、何を書いているんだ?」
「おはよう、寝ぼすけさん。もう11時よ」
レギュラスが後ろから声を掛ける。ちらりと時計を見て、珍しく寝坊したことをくすくす笑うとレギュラスは拗ねた顔をした。 私は彼の、この子供っぽい顔が好きなのだ。周りには見せない、私だけが見れる、素のレギュラス。 これ以上レギュラスの機嫌を下げないよう、さっきまで使っていた羽根ペンを机に置き、ノートをパタンと閉じた。レギュラスがすうっとノートに視線を落とし、先程と同じ質問をした。
「さっきから、何を熱心に書いていたんだ」
「やだ、レギュラス。ずっと見てたの?」
「あぁ、××が寝室にも台所にも居ないから探した。書斎に居たとはな」
「ごめんなさい、勝手に書斎を使ってしまって。インクと羽根ペンを借りただけで、後は何もいじってないわ。少し静かな場所で作業したかったの」
「別に構わない。ここは僕の書斎だけど、この家は僕と××の物だろう?」
そう言ってレギュラスは少し屈んで、椅子に座っていた私の額にそっとキスを落とす。その柔らかい唇と優しいキスに、まだ初々しかった学生時代を思い出させる。口元から、またくすりと笑みが零れた。
「優しいキスね。私もお返し」
今度は私がレギュラスの頬に、軽く触れるだけのキスをした。そのままキスの余韻を愉しむように親指で唇をなぞり、手の平できめ細やかな白い肌を撫でる。レギュラスは猫のように目を細め、手の平に頬を擦り付けた。私にはまるでもっと撫でてと催促しているように見えた。彼は存外撫でられるのが好きなようだ。これはレギュラスと一緒に暮らし始めてから分かったことであった。
一通り撫で終わって満足したからなのか、先程の質問に答えていないことを思い出した。
ノートの背表紙をそっと触る。これには学生時代から一度も欠かさずに書いてきた、私の気持ちが全て文字として綴られているのだ。
ノートを手に取り椅子から立ち上がる。そのままノートを胸に抱きしめ、レギュラスの肩に頭を置くと、彼はそっと私の腰を抱いてくれた。
「あのねレギュラス、このノートにはレギュラスへの想いが書かれているのよ」
「僕への想い?」
「そう。学生の時からずっと」
私がそう囁いてレギュラスの双眸を見つめると、まるで黒耀石のように美しい瞳が熱の篭った視線を向けた。彼が、私が胸に抱いていたノートを手に取りページを捲る。そこには他愛もないことからレギュラスと結ばれた日のこと、喧嘩したこと、仲直りしたこと、様々なことが書いてある。そして文字が綴られている最後のページには今日の日付が書かれていた。 レギュラスが何も言わずにノートのページを捲るものだから段々と気恥ずかしくなってきた。
「…やっぱり返して」
「嫌だ。それにこれは僕へ伝えたくて書いたんじゃないのか?」 確かにレギュラスにこの気持ちが届けばいいと書いていて思ったこともあるが、実際に口に出して言われると何だか恥ずかしいものがある。レギュラスの体が軽く揺れ、私の耳に小さくククッと笑った声が聞こえた。 見上げなくたって今どんな顔をしているのか分かる。
「まるでこれは…、僕へのラブレターみたいだ」
そんな恥ずかしい台詞を堂々と言うものだからタチが悪い。カーッと体中が熱くなる感覚がした。今日はそれ程気温も高くなく過ごしやすい天気だというのに、火照った体は中々冷えない。私が照れているのが分かっている癖に腰に回した手は決して離さないレギュラスを睨みつけた。
あぁ、もう、そんな台詞でも格好良く見えるのは惚れた弱みなのか。
君への想いをラブレターに綴じ込めた
2013.02.19
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