小説 | ナノ
 


私はまだ恋をしたことがない。過去にいいなと思う男の子は居たけれど、それが恋だったかと問われれば首を傾げるもので、ある。放課後に友人から恋愛話を聞く機会が多いからなんとなく知識としてはあるが、きゅんとするとか、胸が切なくなるとか抽象的な話ばかりで実際どういうものなのか、さっぱり分からない。

友人たちの話を聞いている時はいまいちピンと来ず、分からなかった。
でも気付いたの。今私が悠太くんを想っているこの気持ちが恋だってことに!





朝教室に入ったらおはようの挨拶をする。授業中は後ろ姿を眺めて、放課後はさよならの挨拶をして帰る。
ただそれだけで幸せな気持ちになれるって気付いた。
目が合うとテンションが上がるし偶然喋れた時なんてドキドキしてまともに顔も見れなかった。
まぁ、喋れたと言っても「〇〇さん、俺こっち半分の黒板消すから、そっち側消してくれる?」「あ、分かった」という色気もへったくれもない会話だけど。
でも、悠太くんと会話出来るだけで嬉しいんだ。ありがとう先生、日直の当番をこの順番にしてくれて!もうハゲだなんて呼ばないよ!

しかし無情にも、悠太くんと日直出来る時間は刻々と減っていき、とうとうSHRの時間になった。先生の話も終わり、後は私が号令を掛けるだけになった。

「…きりーつ、礼、さよーなら」

SHRが終わり教室内がザワザワと騒がしくなるがそれに反比例するかのように私の気分は落ち込んでいく。

「××ー、帰ろ」

「やだ帰りたくない」

「何言ってんのよ〜。ほら帰るよ」

友達にぐいっと腕を引っ張られしぶしぶ席を立つ。名残惜しいがしょうがない、いつまでも居るわけにはいかないし。机の上に置いてあったバックを持って友達と一緒に教室から出た。

「今日が金曜日じゃなかったらよかったのに…」

せっかく悠太くんと日直が出来て、少しだけだけど会話も出来たというのに。明日も明後日も会えないなんて…。
ぐちぐちと友人にぼやいていると、またかという顔をして鬱陶しそうに話す。

「××あんたまた言ってんの?そんなに好きなら告白すればいいじゃん」

浅羽って確かフリーでしょ?と興味なさそうに発した友人の言葉に小さく頷いた。
確かにフリーではあるよ。フリーではあるけど、クラス中の女子が虎視眈々と狙っている状態で告白とか死刑を宣告されたようなものだよね!
そんな恐ろしいことをチキンな私には出来ないに決まっている。

「そういえばさ、授業でやった問題解けた?あれ解けないと課題のやつも解けないらしいよ」

「今日の授業難しくてついていけなかったよ。もー……あ!やばい、教室に数学のノート忘れちゃったかも」

「確かあれ提出明日じゃなかったっけ?玄関で待ってるから取っておいでよ」

「うん、ごめん。ちょっと取って来るね」

もうすぐで玄関だという所で明日提出のノートを教室に忘れたことを思い出した。
ダメだなぁ、最近。悠太くんのことで頭がいっぱいで、悠太くんのことを考えるとそれ以外のことは考えられなくなる。そのせいで最近は失敗してばかりだ。
友人を待たせているからスカートがめくれることなど気にせずに階段を二段飛ばしで上ると、放課後だからか誰もいない廊下にパタパタと足音が響いた。
普段運動をしないせいか少し走っただけで息が苦しい。階段を駆け上がったせいで、足もがくがくしてきたので走るのは止め、廊下を歩いた。私のクラスは階段を上がって左に3つ目の教室だ。
ようやく呼吸も落ち着いたところで教室に到着し、勢いよく扉を開くと、そこには教室の真ん中で立っている悠太くんがいた。


2013.02.19



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