「……ねぇ」

後ろを振り返れば、いつも笑顔を顔に張り付けた彼が
珍しく青白い顔で口元をひきつらせてこちらを見ていた

「なぁに?」

私はわざととぼけたように笑う。最上級の笑顔で
ある意味嫌がらせで

「何しようとしてるのかな」

「わかってるくせに…言わせたいの?」

「…遠慮しておくよ」

青白い顔から更に血の気が消えた
私の手には、しっかりと籠が握られていて
その中身は彼の苦手な大量の赤いもの、トマトである
今日は収穫祭の最終日。つまりは
トマトを投げるお祭りの真っ最中である
当然トマトが苦手な彼は部屋にこもって不参加予定だったようで
けれど、私はそれを許さないわけで
苦手ならこの気に克服してしまえばいいじゃない!

「その歳になって好き嫌いが未だにあるなんて情けないと思うの」

「ほうっておいて欲しいんだけど」

「嫌よ」

ぷいっと拗ねたようにそっぽを向く
可愛いなんて歳じゃないんだけど、ね
後ろを盗み見すると、やはりそこまで彼は焦っていなかった
…少しは反応してくれてもいいのに

「…私の愛が要らないって言うの?」

「……キミ、酔ってる?」

「素面よ。ほら食べて?」

あーん、なんて言いながら手に掴んだトマトを彼の口に押しつけた
けれど、彼は口を堅く閉ざしたままで
このままじゃトマト、握り潰すかも

「あ」

「…………何?」

ガブリとトマトを口に含む
諦めたのかと彼がほっとしていたのも束の間

「ふぁい」

「は?」

「ひゃれてれ」

待て、と彼が口にする前にねじ込んでやった私の唇ごと
思い切りねじ込んだので、彼は飲み込むしか選択肢はなくて
仕方なく、といったように飲み込んでいた

「おいしい?」

「……まずい」

「克服しようよ」

「口直し」

再び彼の唇が近くなるが、拒否する理由もないのですんなりと受け入れた
さっきのより大分長かったけど
おかげで酸欠気味で、肩が上下してしまう

「……トマト味」

「当たり前でしょ」

「おいしいかもね」

「本当に?なら、口移しで食べさせてあげるね」

「当分はいらないよ」

それもまた愛のカタチ
歪んでる?上等よ!



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