自称シャンクスの女ウタの姉

フィルムレッドと40億巻のネタバレが含まれます




















子どもはどこから来るの?
そんな疑問は現実が教えてくれた。赤ちゃんは宝箱の中に生まれて船にやってくるのだ。
赤と白の髪を半分ずつ、地面に対して垂直に半分に分けた赤ちゃんが宝箱の中にいた。海賊は宝箱を奪う。そして大切にする。

「宝箱の中の子どもは海賊になるの?」
「絶対じゃない。でも、俺はそうだ」
「私も? 宝箱から生まれたんでしょう?」
「さぁな」
「私は赤髪海賊団の一員だよ。ずっとシャンクスと一緒にいる」
「そうだな」

「だから私も海賊」
私は宝箱の中に入っていたらしい。生まれた時の記憶はない。シャンクスから聞いた。一番昔の記憶はシャンクスと一緒に船の上で風を浴びている記憶。
潮風のにおい。手を繋いでくれたシャンクス。

「私は赤髪海賊団の、何?」

シャンクスは船長。ベックマンは副船長。ホンゴウは船医。みんな名前とは別に赤髪海賊団の役割がある。
私は赤髪海賊団の何かをみんなは教えてくれない。名前は名前だって笑って誤魔化される。
私は誤魔化される年齢じゃないし、船に乗っている時間だって長い。私を適当な島に下ろさないってことは、赤髪海賊団にいていいと思ってたのに。

「じゃあ、名前はお姉ちゃんだ」
「お姉ちゃんって、誰の?」
「この子のだ。名前は一番歳が近いし、いいお姉ちゃんになるだろう」
「私は赤髪海賊団のお姉ちゃんってこと?」
「違う。ウタのお姉ちゃんだ」

ウタ、この宝箱の中の赤ちゃんの名前だ。ふわふわした髪の毛が柔らかい布の上で風に吹かれる。お洋服からして、女の子なのだろうか。

「じゃあ、ウタと別れるまで私はここにいていいの?」
「当然だ。名前を船から下ろそうとしたこと、あったか?」
「……ない、と思う」
「だろ?」
「つまり、私はシャンクスの女ってこと? ベックマンが言ってた!」
「それは違う」
「なんで? 私はシャンクスが好き。シャンクスも私が好き。しかも船に乗ってる」
「それとは意味が違うんだ」
「いつかシャンクスと私の子どもが宝箱の中に出来たら認めてよ」

シャンクスは笑い出した。周りにいる船員も笑い出す。これは馬鹿にしてる時の笑いだってすぐにわかった。

「もういい」

私は船員に子どもだから、って馬鹿にされる。私は食事の手伝いや掃除だってしてる。船員として一人前なはずだ。ハブられていないし、体の大きさを考慮すれば十分に働いている。みんなにいい子だって褒められることも多い。
なのにどうして。

成長していくウタはずっとワガママで、いい子の私とは全然違う。ワガママなのにどうして、シャンクスは笑ってるし、みんなは私じゃなくてウタばっかり。ウタは手がかかるって困らせてるけど、私は全然文句言わないし、泣かないし、困らせない。

「ねぇ、ウタ。お姉ちゃんとして言うけどなんで夜寝ないの? シャンクス困ってるじゃん」
シャンクスと3人でベッドに寝る。シャンクスがいない時は2人だけ。その時の寝かしつけはお姉ちゃんである私の役目。

「眠れないんだからしょうがないでしょ!」
「眠れなくても静かにベッドで横になってればいいじゃん! なんでウタはそれが出来ないの!?」
「だってウタ、お姉ちゃんじゃないもん!」
「じゃあお姉ちゃんが歌ってる間は静かに目を瞑ってて。子守り歌ってやつを教えてもらったの」

聞いたばかりの歌を歌う。聞いたリズムや音が違う。分かっていながらも歌詞を口にする。早く眠れと歌詞も言う。

「ウタも歌う!」
私が歌い終わったらウタは歌うとゴネ出した。こうなると時間がかかる。子守り歌は失敗。
「お姉ちゃんも歌って」
嫌だ、と言ったら更なる我儘が発動するのは分かっていた。
「なんで私まで」
「お姉ちゃんと一緒がいい」

はいはい、と適当に返事をして歌い出す。今日は朝まで歌うのだろう。
シャンクスはどこかの島でウタを下ろすつもりなのだろう。今だって島の探索をして、ウタを下ろすかどうか考えているのだろう。お姉ちゃんは一緒にウタと船を降ろされるのだろうか。
シャンクスは何というか分からない。

ウタは歌を歌うことが好きらしい。歌い疲れて寝た。これからは昼間にたくさん歌わせればきっと疲れて眠るだろう。
ウタがいい子になってくれればいい。そうしたら我儘も減る。お姉ちゃんって泣くことも減る。
そうしたら、どこかの島で安心して預けられる。


ウタなんて嫌いだ。
ウタはどんどん歌が上手くなった。我儘にもステージを要求し、歌う。船員はウタの歌を褒め称える。
「お姉ちゃんも一緒に歌おう!」って言ってくれるけれど、最近仲間になった船員たちはウタ1人の時と比べて喜ばない。

昔から仲間の人たちは微笑ましく映っているのだろう。私とウタが一緒にやるのが歌じゃなくて、踊りだろうと、何だろうとそうやって手を叩く。

ウタは私よりも歌が上手い。ウタが成長するだけ私も成長する。仲間の反応だってわかるようになる。
誰にだって得意不得意がある。私はいい子だし、お姉ちゃんだし、料理や掃除や整理整頓が上手いけど、ウタはそれほどじゃない。

「ウタは赤髪海賊団の音楽家だな」

シャンクスがそう言った。私が、ウタの姉になったくらいの年齢の時にシャンクスは私に役割をくれなかった。私は赤髪海賊団の何? なんでウタはよくて私はよくないの?

「私はシャンクスの女だから」
「自称、な」

キッチンで座り込んでいると、ラッキー・ルウが芋の入ったバケツとナイフ、ボウルを私の近くに置く。
芋を手に取ってナイフで皮を剥いて、ボウルに入れる。昔はナイフを触らせてくれなかったけど、触らせて貰えるようになって随分と経つ。芋の皮剥きだって綺麗にできる。

「私は赤髪海賊団の何なの」
「お頭に聞け」
「もーーー!! なんでルウまで!!!!!」
「お、反抗期か?」
「ちがう!!!」

口をへの字にして精一杯の反抗を見せる。芋を剥く手は止めない。

「名前はいい子だもんな」
「違うもん!」
「じゃあ反抗期だ」

海賊船に乗った人間の役割に何がある? 役割のない人間は陸にも船にもいる。長年乗っていて、仲間から信頼されてて、船長とも仲がいい。

「シャンクスは私のこと好きだもん」
「だからってお頭が俺の女だって言ったのか?」
「……いうかもしれないじゃん」

ラッキー・ルウは笑う。また馬鹿にしたような笑い方。こうやって笑われるのが一番嫌だ。でももっと怖いのは、この船から降ろされること。

「いい子じゃなくなったら、お姉ちゃんじゃなくなる? 船から降ろされちゃう?」

役割がないのは、必要がない船員ってこと。いつでも船を降ろされるってこと。
狙撃手とか航海士とかいなきゃ困る人たちは役割が貰える、と私なりに考えた。

「名前はそんな心配しなくていい」
「でも、」
「反抗期でも、シャンクスは受け入れてくれるさ。ウタだって、そうだろ」
「私はウタと違うもん」

私は歌が上手くない。プライド捨ててウタの真似して歌を歌って、踊ってもウタほどいい反応は貰えないし、ウタには敵わない。それに、ウタの方が好かれている。みんなから。分かっているのだ。

「キッチンには好きなだけいていいぜ」
「……ありがと」
「剥かなきゃいけない芋は山ほどある」

最初は食糧庫で小さくなって泣いていたけど、今はキッチンになった。キッチンは火を使うし、色んな音が常にある。声を殺して泣いても、他の音がかき消してくれる。ルウが寒いだろ、とキッチンに何度も私を移動させた。

「赤髪海賊団の芋剥き係ってカッコ悪。誰にでも出来るし」
「名前は上手いぞ」
「みんな出来るよこれくらい。やらないだけ」
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