ビジネス教祖

宗教をビジネスとして捉えている夢主がいます
夢主が夏油さんに汚い言葉を投げます
















最近あの宗教団体の頭が変わったらしい。
管理職の一人がそんな情報を持ってきた。
「名前は夏油と言う」
「夏油様、って呼ばせてるんだ。ふぅん」
「うちの信者が何人かそっちへ行ったようで」
「でしょうね」
夏油様を崇める宗教団体は規模が大きく信者を囲うこともしなければ孤立させることもない。
新規の信者を選ぶこともない一見さん歓迎の宗教屋さん。
うちとは少し違う。
「うちは少数のリピーターによって支えられてるからね」
「どうしますか、教祖様」
私は信者に教祖と呼ばせて特別感があるように感じさせる。
生まれ持ったカリスマ性はかなり厄介なもので嫌な思いをすることもあった。嫌なことを避けつつ上手く生きるために私は自分のカリスマ性を利用した。私は人を惹きつける力があるし、人が言ってほしいことが分かる。話をするだけで人を魅了する。私に全て委ねれば、私に協力すれば物事が上手くいくと勘違いさせることが出来る。
それを分かって「信者」を作り「教祖」になった。
教祖には御布施を、金を、そうすれば信者が気持ちよくなれる。
「大丈夫じゃない? どうせまた戻ってくるよ」
他を偽物と決めつけた信者はより私のことを強固に慕う。私は絶対的存在で、なくてはならない存在。
金持ちの少ないリピーターたち、一見様お断り。
初めての人はリピーターに金を出してもらう。そんなお座敷遊びを宗教で楽しませる。
金を出せば出すほど特別感を与えて、特別感を勝手に感じてくれるようになる。これだけお金を払ったのだから、と安心を買っていく。
「夏油様、って人は教祖向いてないんだろうなぁ……目的、って何だと思う? 金にならない人に会うなんて時間の無駄じゃん」
「さぁ……彼方には彼方の商売方法があるのでしょう」
「そうだねぇ」
私は教祖で、代表取締役のようなもので喋り相手は私に仕える者で管理職。
たった二人だけで構成された宗教団体の運営。お金はほぼ私の元へ。
「商売以外の目的で宗教やるなんて、正気の沙汰じゃないよ」
ヒーローなんて長く続かない。消耗していつか消えていく。教祖を失った信者は穴を埋めるために別のものに手を出していく。
「夏油様、って人から連絡来たらどうしようねぇ」

噂をすれば影。信者が無断で夏油様を連れてきた。この信者はまだ新参者でこの宗教の遊び方を「きちんと」分かってない人間だった。
「夏油様が教祖様にお会いしたいと仰って……」
この信者は金はある。まだ稼がせることも出来る。逃すには少し惜しいか。
舌打ちを我慢してアルカイックスマイルを作り上げた。
「夏油様、と言いますと……」
「申し遅れました。夏油傑と申します」
「噂は聞いているよ」
「ええ、人の悩みを聞き、人を救う、あなたと同じ、同志と言うべきでしょうか」
「そのような方が何故、私の元へ? 悩みでもあるのですか」


金周りがいい宗教団体は調べ尽くしてある。猿からの金の奪い方、猿を集める方法、それら全ては真似ればいいことだった。
中には呪霊や式神を使って「奇跡」を起こす者もいたが、教祖か運営に憑いている呪霊を回収すれば奇跡は起こらなくなる。
夏油が使えばそれはまた「奇跡」になる。
少数の金持ちの猿を抱え猿を成長させて金を吸い取る教祖、名前にも何らかの呪霊が憑いていると考えたのに。何故。
名前に憑いている呪霊は降伏しない。ナマエを殺すことも出来ない。ナマエに危害を加えようとすると反撃してくる。
信者がいる手前、猿から見える暴力を振るえない。手始めに呪霊操術で攻撃してもかわされる。
ナマエは頬を少しだけ持ち上げると猿に目配せした。
「信者さん、本日は夏油さんをお連れして下さりありがとう。私たちは惹かれ合うものがあるらしい。本日はお引き取り願えるかい?」
そう言った名前は有無を言わさず信者を帰らせた。
「で、夏油さん。貴方は私を殺したいのね」
「いや、その呪霊を譲って貰えればいいんだ」
「私を守ってくれるのに? 貴方にはいっぱいいるじゃん? いらないよねぇ、そんなには」
「教祖様とは思えない口振りだね」
「教祖様、なんて。信者が楽しくお金を払うための演出代だからねぇ。夏油様は違うみたいだけど」
「呪術師か」
「お互いね。分かっていたくせに」
名前は「人類なんて滅びればいい」と言った。
「みんながどーーんって死んじゃえば苦痛も幸福も何もかもなくなっていいじゃん。そうでしょ、夏油傑くん」
「非術師がいなくなり、術師だけの世界を創る」

業務提携、と聞けば名前は良いが公表しなければズルでしかない。
夏油様の宗教と私の宗教、私と夏油様と夏油様の家族しか知らないトップシークレット。
私は非術師も術師も関係なくみんな滅びれば良いと思っているし、夏油の家族は必ずしも夏油と同じ思想ではなかった。
私の宗教屋さんと夏油さんの宗教屋さんに二重で浸かっている信者にはそれを否定しなかった。
私の元に来た信者の呪霊は夏油さんにあげた。信者は呪霊がなくなって金をより稼ぐし、また憑いたら夏油さんが回収。金が稼げなくなったら捨てる。
少数のリピーターのみの運営という点は何ら変わりない。管理職の人は猿、という理由で夏油さんに殺されてた。特に思い入れもなく、いざとなった時の蜥蜴の尻尾でしかないのでやることは変わらない。
警察が出てきたら逮捕させる人間を作るんじゃなくて警察を殺すだけ。今のところ警察の人間も信者なのでその必要性はあまり感じない。
「夏油さんはいつか人間大虐殺するんでしょ」
「それが?」
「いつか教えてよ。逃げるからさぁ」
「もちろん教えるよ。家族だからね」
「いや家族じゃないし私は」
家族と呼ぶ呪術師たちは彼を慕う者たちで構成されていた。私は彼を慕っていない。ビジネスの相手だから信用している、せざるを得ない相手であり盲目に仕える気はない。
「協力してくれないの?」
「するけど。それまで金は回収するし、使えるうちに使いたいし?」
「名前は大金持ちだからな」
「それが何? 稼いで使って何が悪い」
限定50食のケーキを食べて、誰でも飲めるタピオカを飲む。
「私には使ってくれないのか」
「夏油さんはお金持ちでしょ。ミミナナにあげる方が楽しい」
二人がやりたいって言うことは何でも叶えてあげたいし、叶えてあげる。子どもは守らなければならないから。幸せにならなければいけないから。
「夏油さんって呼ばずに傑って呼べば良いのに」
「呼んでほしいなら呼んであげるけど金取るよ」
「払うよ」
「キショ。呼ばなくても私と仲良くしたがるんだからいいじゃん。これだから欲望は」
「名前は魅力的だね」
私の奥にいる呪霊を見つめる夏油さんは気持ちが悪い。私の呪霊は人を魅了する能力と私を守る能力がある。それを知りながら呪霊ではなく私を呼ぶ呪術師。
「ちょっと理解できないですね」
「寂しいこと言うね」
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