ネイル

ルーク・ハントに殺される夢小説











彼は真っ赤な爪より桜色の爪の方が好みなの。
私はずっとそう勘違いをしていた。

寮長、ヴィルさんは私にさりげなくコスメを教えてくれるし、私は目をかけられていたと思う。ルークさんはヴィルさんが気にかけている子という理由で私に興味を持ってくれた。今は私自身に興味を持ってくれているみたい。
私はそれが嬉しかった。
モデルで、インフルエンサーで、マジカメのフォロワーだって私とは比べ物にならないヴィルさんを褒めるルークさんが同じ口で私を褒める。
一番最初に褒めてもらったのは、爪だった。
「綺麗な爪だね」
ヤスリで整えてその他にも細々と手入れしてマニキュアを塗っていないのに美しい爪は私のお気に入りだった。長所を聞かれたら爪って答えるしチャームポイントも爪って答える。私はこの爪が好きだった。ルークさんに褒めてもらってからもっと私は自分の爪が好きになった。
ヴィルさんは私の爪に関して褒めもアドバイスもしてくれなかった。
今となってはルークさんの観察眼と審美能力がずば抜けていると分かるし、とても嬉しい。
とても嬉しいはずなのに、恐怖も感じている。
ルークさんが唐突に追いかけっこの提案をした。
私はルークさんが好きだし、彼に構ってもらいたくて、彼と一緒にいる時間を伸ばしたくて二つ返事で受けた。
「助けて!」
私が生徒の沢山いる場所で叫んでも誰も助けてくれない。微笑ましいと笑顔を向けるか、大変だと同情されるか。ルークさんが好んでいる人たちには関わりたくないとフイっと顔を背けられたり。
誰も助けてくれない。私も彼も制服のはずなのにルークさんは余裕の表情で追いかけてくる。
衣擦れの音、バサバサ鳴る上着は私の制服か。
マジカルペンを取ろうとして、うまく握れずに落とした。それすらルークさんに拾われた。
指先をぶつけて、自慢の爪が割れる。泣きそうになった私はルークさんにとってどう見えているのか気になって振り向いた。
ルークさんは形容し難い表情をしていた。
私はルークさんについて何も知らなかったと思い知らされた。だって、あんな顔どうやったって出来ない。
私の認識は違う! 違った! あの狩人は桜色の爪が好きだったんじゃない! 私が纏った美しさに対して美しいと言っていたんだ! 私が爪を真っ赤にしても、それが私の追求した美のあり方ならあれは私を美しいと言っただろう。
足がもつれた。追いつかれる前に立て直して走り出す。息苦しいし、足も疲れてきた。
「狩りは嫌いかい?」
ヒュッ、と喉が鳴った。
ルークさんが怖い。
追いかけっこはルークさんの狩りの一部でしかなかった。私はいつから彼の獲物だったのだろう。
判断力が鈍ったのか、追い込まれたのか人気の少ない路地に追い込まれた。
極端に暗くて、地面も湿っていた。ピチャン、と頭の上に冷たい滴が落ちてきた。
一本道でしかないこの先にランプが見える。突き当たりを見つけて、もう走らなくてもいいんだと安堵した。
「私は、いつから獲物でしたか」
息が苦しい中問いかけるとルークさんはにこりと笑った。
「一目見たときから」
「嬉し、い、です」
走っても息を切らさない、そんな狩人に見初められるなんて光栄だ。
「私のこと、今でも美しいと思ってますか?」
「ウィ。もちろんさ」
そう。
頷こうとしたけど何もできなかった。体は崩れて視界は揺れる。ぬるりとした生暖かい液体が広がっていく。腕をつたい指先もぬるぬるしたそれが垂れてきた。
私の爪は真っ赤に染まっているだろう。
自分でルークさんが言う美しい私の姿を確認できないのが悔やまれる。
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