エイプリルフールの使い方
四月一日に友人である爆豪勝己にメッセージを送った。
『好きです。付き合ってください』と、陳腐で使い古された内容を。
四月一日に告白して、ダメなら冗談だとケラケラ笑って、嘘だって言って誤魔化せば友達のままでいられる。オッケーもらえたら嬉しい。
気持ちは伝えたいけれど、友達でも恋人でもなく単なる知り合いになるのは嫌だ。ギクシャクしたくない。
臆病な私の臆病なメッセージに返事はない。
春休みに会う予定もなく、次会うのは始業式だから行動に移せた。直接言う勇気も、直接フラれる勇気もない。
今は始業式のために学校に向かっている。電車の中で何度も返事がないか確認したし、今だってスマホを見ていたい。
流石に校内で使うのは憚られて鞄の中にしまってあるけれど。
教室に入ると爆豪くんは既にいた。
「おはよ〜う」
いつものように挨拶をして爆豪くんの前を通り過ぎる。大丈夫、上手くできていると私は思ってた。
「ちょっと来い」
鞄を持ったままの私の腕を引いて爆豪くんは教室を出る。朝礼前の人がごった返す廊下をずんずん進んでいく。人気のない場所まで移動すると、爆豪くんは手を離した。
「何だあのふざけたもんは」
「ふざけたもの? それって何?」
「何ってコレだよ!!」
爆豪くんが私の目の前に突きつけたのは、スマートフォンだ。光る画面は私が送った告白文が表示されている。
私は何て言えばいいか分からなくて黙った。
ふざけたつもりで受け止めてくれてもいいけれど、それはそれで困る。
私はあくまでも爆豪くんが私をフったらふざけたつもりにしたかったし、そうじゃなければふざけたつもりにはしたくなかった。
「よりによってエイプリルフールに送るんじゃねーー!!! 保険かけたつもりか!? あぁ!?」
「……そう、そうだよ。フラれても友達でいたかったし、仲がいいままでいたかったんだよ。……ごめんね」
「そうかよ」
私は何も言えずに床を見つめていた。爆豪くんの顔は見れない。
床の傷を眺めて傷を上履でなぞった。上履は新学期なだけあって綺麗だ。
遠くで生徒がはしゃぐ声が聞こえる。私たちは言葉を発しない。
ねぇ、何か言ってよ。
めちゃくちゃズルい方法だけど告白したんだよ。
ふてくされた逆ギレとしか捉えられない言葉を発しようと、爆豪くんを見る。
爆豪くんの顔は真っ赤に染まっていて、私同様に相手を見ていなかった。爆豪くんの視線の先にあるのは壁だ。
爆豪くんを見ていたら、何だか余裕が生まれたような気がする。
「私ね、爆豪くんが好きだよ」
「ん」
「よかったら付き合ってくれない? 爆豪くんさえ良ければ、だけど」
爆豪くんは私を見て、何度か瞬きをしてから口を開いた。
「俺も好きだかんな!」
「うん」
「今日はエイプリルフールじゃねー!! 誤魔化すなよ!」
「――うん」
爆豪くんは言いたいことを言うと一瞬目を逸らして、再び私を見た。
目が合うと気まずくて私はヘラヘラ笑った。爆豪くんは唇を噛んだ。
そうしてしばらく見つめ合っているとチャイムが鳴った。爆豪くんは歩き出した。
私はチャイムが鳴ったのが分かっていたけど、その場から動けずにいた。
「何やってんだ」
「――分かってるよ!」
変な返事をしてしまった。私、混乱してる。
慌てて足を動かして、歩き出そうとすれば体が前に傾いた。転ぶ前に体勢を立て直して歩き出す。
もうすぐ朝礼が始まる。廊下をバタバタ走る生徒たちの中、爆豪くんを追いかけた。