今日はすがすがしいくらいに晴れていた。わたしの気持ちとは正反対の真っ青な空が疎ましい。 「先輩」 「…日吉」 「何泣いてるんですか」 日吉はひとつ後輩なのにわたしよりずっと大人びているようだ。泣きじゃくるわたしの背中を優しく撫でる手のひらが温かい。溢れた涙を日吉の真っ白なシャツで拭う。綺麗に洗濯をし、綺麗にアイロン掛けをしたであろうそれを汚せば怒るだろうとおもったけれど、日吉は何も言わなかった。日吉は訳も聞かずに、慰めの言葉も掛けずに、ただただわたしを泣かせてくれた。今のわたしにはその日吉の不器用な優しさが嬉しくてとてもとても悲しい。 「もう満足ですか?」 「意地悪」 意地悪なのはわたしだ。日吉はわたしがフラれたことを多分知っている。言わなくても知っている。そしてわたしは日吉がわたしのことを好きなのを知っている。言われてないけれど知っている。日吉は解りにくいようで解りやすい。 「先輩」 「なに?」 「…やっぱりいいです」 「気になるから言いなさいよ」 日吉はわたしの背中を撫でる手を止めた。優しく触れていたその手が急にわたしを強く抱きしめる。日吉も男だなとぼんやり思う。 「なんであいつなんだよ」 「なんでって、言われても」 「俺なら先輩を泣かせたりしない」 耳元で聞こえる日吉の声がいつもより低かった。とても冷たかった。 「じゃあ日吉はなんでわたしなのよ」 「それは」 「あの人しか見てないわたしなんて忘れたらいい」 散々日吉の優しさに甘えていたのに、都合が悪くなったら責め立てるわたしは本当にずるい。だけれど日吉はそんなわたしのずるいところを知っていて、わたしを好きでいてくれる。 「そんなこと出来たらとっくにしてます」 悲しい顔の日吉がそう言った。わたしはこの人を好きになれたら幸せになれるのに。どうしてもそこまでずるくはなれなかった。日吉のことを好きだから、日吉を好きにはなれない。 「ごめんね、わたしも同じなの」 「…わかってます、でも」 「もう日吉の悲しい顔は見たくない」 「先輩は勝手ですね」 日吉の目がわたしを捉えて逃がさない。 「それでも俺は貴女を好きだ」 20120214/世界の揺れる音がする |