若気の至りと言ってしまえば、それだけなのかもしれない。わたしも、彼も。 わたしが中学生の三年間ずっと好きだった人は学校で1番の美形で、勉強もテニスもでき、みんなから慕われていた。神様は不公平だ、なんて思っていたけれど、彼は神の子と呼ばれていた。なるほどそれなら納得できる。全てを持っている幸村精市という人に、わたしは恋をしていた。 夏の終わる頃のある夜に、精市から突然メールが来た。今から会えないか、とうい内容の短いメールだった。わたしは家族にばれないように音を立てずに静かに家を出る。外は少し肌寒い。もう夏が終わるんだ、と思った。精市はもうすぐそこでわたしを待っていた。サンダルがパタパタと小さな音を立てる。精市に駆け寄ると、ふわりと抱き寄せられた。 「どうしたの?」 「ううん、なんでもないんだ」 「でも」 「会いたくなっただけだよ」 精市の身体は冷たかった。今までどこにいたのだろうか。なんとなくそれは聞けずに精市の冷たい背中を撫でる。精市は何も言わずにただされるがままだ。 「おれは、君がいないともうだめかもしれない」 え、と声にならない声を発した。驚いて顔を上げると、触れるだけのキスをされた。 「なんでもないよ」 精市が困ったように笑うので、わたしはどうしようもなく泣きたくなってしまった。わたしよりも大きな精市の身体がいつもより小さく見える。 「死ぬまでそばにいてあげる」 口をついて出た言葉に自分でも驚いたが、精市はもっと驚いていたようだ。 「精市、わたしが死ぬまでそばにいてあげるから」 精市はわたしに甘えるように寄りかかり、耳元で小さく囁いた。その言葉が、わたしはしあわせだった。これからわたしたちはずっと2人で生きて行くんだ、と、そう思った。 懐かしい夢だ。時計は午前二時を指している。ずっと忘れていたはずなのに、あの頃の気持ちがフラッシュバックして、瞬きの数さえも鮮明に思い出せるくらいに、映像が浮かび上がり、涙が溢れた。 あの時「死ぬまでそばにいてあげる」と、言ったのは間違いなく本心だったのだけれど結果的に嘘になってしまった言葉だ。それを、寂しがり屋の彼はどう思っているのだろうか。今更それがどうしてか気がかりだ。 「ずっとそばにいてね」 完璧だと思っていた精市が始めて見せた弱さだった。神の子と呼ばれている幸村精市の人並みの弱さだった。この世界には神様なんていないんだ、とあの時思った。 戻せない時間を悔いて涙が止まらなかった。今夜は眠れない。 20150310 午前二時/モーモールルギャバン |