~2015 | ナノ



「で?」
「で、とは?」
「チョコはまだ?」

放課後、部活も終わりさあ帰ろう、と思ったら、幸村に呼び止められた。今日はよく幸村に声をかけられる一日だと思ったら、そういうことか。幸村はわたしにたかっている。わたしなんかを狙わなくたっていろんな女の子からチョコをもらうはずなのに。

「ないけど」
「え」
「ありません」
「どうして?」
「どうしてもこうしてもないわよ」
「今日は何の日か知ってる?」
「バレンタイン」
「好きな人にチョコをあげる日だよ?」
「知ってる」
「じゃあ、俺にチョコは?」
「ない」

幸村はおかしいな…とぶつぶつ。おかしいのはどっち。いっぱいもらってるんじゃないの。そんなにがめついやつだとは知らなかった。

「もらってたでしょたくさん」
「全部断ったよ」
「なんで?」
「そんなにたくさん食べられないだろ」
「じゃあわたしからもいらないじゃん」
「お前のチョコのために断ったんだから」
「は?」

言葉の意味を理解できないわたしの手を引いて、幸村はずんずん歩き出す。

「本当は手作りが良かったんだけど、今から買いに行く?それとも、」

幸村の冷えた指先がわたしの唇に触れた。

バレンタインデイ、キッス



・・・



「むう」

真田くんにチョコを渡せば、一言唸ったきり俯いたままだ。そして耳まで真っ赤。「今はテニスに忙しいから恋なんてしている暇はない」みたいな、ありきたりな言葉で断られると予想していたから、驚いている。もともと断られることを覚悟しての告白だった。それなのに真田くんはなにも言ってくれない。だんだんいたたまれない気持ちになってきた。真田くんの赤らみにつられてわたしまで顔から火が出るくらい恥ずかしい。

「返事はあとでいいから」

そう一言言い残して立ち去ろうとしたら、「待て」と大きな真田くんの声が廊下に響き渡り、そのまま立ち止まる。ああ、いよいよフラれるのね。

「その、あの、だな」

もごもごと口ごもる真田くんの腕の中に閉じ込められたのは数秒後。

熱い抱擁



・・・



「得体のしれない女からのチョコなんて食べられるわけないだろう」

「最低」、と言っても私の言葉じゃびくりともしない。こんなひどい男がモテる。いったい今日は何人の女の子から告白をされたのだろう、柳はそのすべてを断ったという。もったいないお話。わたしよりかわいい子なんてくさるほどいるだろうに。どうしてか柳は私のチョコを食べている。

「柳って趣味悪い」

そう悪態をつけば、柳はくくくと笑うのだった。

「そんなこと言って、他のを受け取ったら嫉妬するのはお前だろう」

まったく、その通りなのである。

ずるい、



・・・



「いただきまーす」

彼女の目の前で彼女以外の女の子からもらった手作りの色とりどりのチョコを、ブン太はおいしそうに食べる。言いようのない疎外感である。わたしが作ったチョコレイトのホールケーキは冷蔵庫の中で泣いている。まさかあのブン太が、もらえるお菓子を断るわけがないのだ。淡い期待を抱いた昨日までのわたしに、冷蔵庫の中のケーキを投げつけてやりたい。

「わたしからは、今年はこれだ」

チロルチョコを投げつける。20円。わたしの愛の金額。ブン太は不服そうにチロルチョコを投げ返してくる。テニス部員の力で投げられると痛かった、怒ってるんだ。

「嘘つくんじゃねえよ」
「何のことかしら」

とぼけてみるも無駄だったようだ。ブン太は立ち上がって冷蔵庫を勢いよく開けた。

「お前のがいちばん楽しみだったんだよい」
「ブンちゃんのばかあ」

いっぱいの愛を



・・・



鏡の前でいつも以上に髪型を気にする後輩、そんなにワックスつけたってそんなもじゃもじゃ抑え込めるわけがない。もうやめなさい。

「今更髪型変えてもチョコはもらえないよ」
「先輩ひどいっすよお〜」
「事実よ」
「それに、別にチョコほしいとかそんなんじゃないっす」
「残念、赤也に渡すものあったのに」
「嘘っす欲しいっす超欲しいっす」
「赤也くんいい子いい子」
「先輩からのチョコとかまじでいちばん嬉しいっす」

にっこり満面の笑みで言うから、いとしさがこみ上げる。ワックスつけすぎの髪をもしゃもしゃーっと撫でると、「崩れるからいじんないでくださいー」と不機嫌な声。でもね、わたし、そのままの君が好きなのよ。

可愛い人好きな人


・・・
20130214/ハッピーバレンタイン!