~2015 | ナノ

彼への愛を込めた手作りのチョコレイト、と、いえばものすごく聞こえはいいけれど、実際はスーパーの特売でかったいちばん安い板チョコを溶かして固めて冷やしただけだ。そんな製作費およそ300円のチョコで、わたしの彼氏は喜ぶ。ハート型のそれを、嬉しそうに食べる。


「君からチョコもらえるなんて嬉しいよ」


キヨがそんな風に笑うからわたしは悲しい。彼はほかに何個のチョコをもらっただろう。義理チョコなのか本命なのかはわからないけれど、手にしている紙袋にはかわいくラッピングされているチョコたちがあふれんばかりに詰め込まれている。それを隠すこともせずに彼女に会いに来るのだからやましいことなんてないのだろう。そう、キヨの女好きにやましいことなんて一つもないのだ。


「何個もらったの?チョコ」


なるべく嫉妬を隠した声で尋ねると、キヨは鼻の下をのばして「たくさん」と答える。そうか、たくさん。やっぱりキヨはモテる。
きっとあの紙袋の中には、たくさんの愛が込められているだろう。わたしの簡単なチョコよりも、手間がかかった手作りがあるだろうし、店頭で売られる高いチョコもあるかもしれない。ラッピングだって色とりどりのリボンで飾りつけられている。わたしのそっけないチョコはもぐもぐと口を動かすキヨの中でどろりどろりと溶かされていくのだ。

本当は、キヨのためならどんなに高いチョコを買うことだって、手のかかったケーキを焼くことだって苦ではない。だけれどこれは彼女の余裕。つまらないプライドだ。「わたしはキヨの彼女なんだから、チョコで気を引いたりなんてしなくたって、ほかの女の子たちには負けてない」という意地だ。プライドだ。そんなわたしを知ればキヨは呆れるだろうか笑うだろうか。それでもわたしは必死だった。


「たくさんもらったけど、君のがいちばん嬉しいんだ」
「本当?よかった」
「君のがいちばんおいしいんだ」
「ありがとう」


キヨの口の周りにはチョコレイトがついていた。そんなに夢中に食べてくれたことが純粋に嬉しかった。こんなに喜んでくれるのなら変な意地をはらずにもっと手の込んだものもつくればよかった、とほんの少しだけ後悔をした。


「ねえねえ、俺が他の子からもチョコもらって、嫉妬してる?」


にい、とチョコレイトだらけの口角をあげて、こちらを見ているキヨは確信犯の笑み。なんてこと。



おどろおどろしく溶けろ

20120214/titel夜に溶け出すキリン町