~2015 | ナノ

バレンタインデイなんて、男子だけが得をする一日。色気づく教室は居心地が悪い。チョコをあげる相手、すなわち好きな人がいないわたしは無関係だからだ。コくるだのなんだのときゃっきゃとはしゃぐ女子には混ざれないし、もらえるかどうかとそわそわする男子にももちろん混ざれない。


「あげる相手もいないんだもんなー」
「うるさい」
「かわいそうに」
「うるさい堀尾」


堀尾はいつもと変わらない風を装っているが他の男子同様そわそわしている、いつもよりセットされた髪型がそれを物語っているし、席を離れた度に念入りに机の中をチェックしている。心配するな堀尾、君はもらえない。


「チョコ0個の堀尾のほうがかわいそうだけど?」


そう言い返せば堀尾はわたしの元を無言で立ち去った。こんな日はもう、本当に、うんざりなのであった。




「誰がチョコ0個だって?」
「げ、堀尾」
「ホラ、俺ももらえたぞ!」
「義理だけどね!!」


割って入ってきたのは朋香だ。「リョーマ様に作った本命チョコのついでに決まってるでしょ!」と声を荒げる。「越前には受け取ってもらえなかったくせに」と堀尾も言い返す。「リョーマ様はチョコが苦手だったんだから、仕方ないでしょ?!」朋香も負けない。
越前くんはいつもまわりでこんなに騒がれているのかと思うとぞっとした。わたし、越前くんじゃなくてよかった。


「あ、あの」
「桜乃?どうしたの?」


現れたのは竜崎さんだ。いつも朋香と一緒にいるけれど、わたしはあまり話したことがない。けれど長く結われた三つ編みとか、小さくて震える声とか、不安そうに揺らぐ大きな瞳がすごく可愛くて、話してみたいなと思っている相手である。


「あの、あのね、これ」


竜崎さんの小さな手には可愛らしいピンク色のリボンで綺麗にラッピングされた小さな袋。それをまっすぐわたしの元に差し出す。


「えっと、竜崎さん?これ?」
「これ、作ったの、クッキーなんだけど…」
「くれるの?わたしに?」
「う、うん、よかったら食べて?」


頬を赤らめ俯く彼女は可愛らしかった。男子がそわそわする気持ちがなんとなくわかった。


「この子ね、ずっとあんたと友達になりたいって言ってたの」
「ちょ、ちょっと朋ちゃん!!」


慌てふためく竜崎さんを見ていると自然と笑みがこぼれた。


「桜乃、ありがとう、すっごく嬉しい」



バレンタインも悪くない。


シュガー・マイレディ


20120214/titelメルヘン