武装する。 ピンクのアイシャドウ、ながいつけまつげ、たっぷりグロス、キラキラビーズの指輪、レースのシュシュ、短いスカート。 武装する、武装する、武装する。鏡に映る自分の顔にはもううんざりなのだ。鏡の向こうのわたしはいつだって泣いている。だから武装する。朝は戦だ。彼の周りは華やかすぎる。そのままのわたしでは到底敵いそうにないのだ。可愛い女の子たちに負けないように、醜いわたしは武装する。 丸井ブン太、という男は。いつも可愛い女の子を連れている。周りには可愛い女子が群がっている。まるで綺麗なお花に蝶が集まるみたい、とわたしはいつも思う。そんな彼はとても手が早くて可愛い女の子ならだれとでも寝るらしい。 「話ってなに?」 勇気をだして丸井くんを呼び出した。放課後の誰もいない教室でふたりきりなんてありがちな少女まんがみたいだ。 「わたし、丸井くんのこと、好きなの」 「おれも、最近可愛くなったなって見てたよ」 丸井くんはそういって、わたしの手に触れる。ほんとだ、早い。と冷静な頭がかんがえる。そのまま丸井くんの手は、頬に触れ、「目つぶって」と耳元で囁かれる。わたしは心が震えるのを感じながら、きつく目をとじる。丸井くんのくちびるはとてもとても甘い。 「丸井くん…」 「ブン太でいーよ」 「ブンちゃん」 ほかの子みたいに、ブンちゃんと呼べば、丸井くんもほかの子にするみたいに、わたしの名前を呼んだ。魔法みたい。きれいになれる魔法。これでわたしもおなじになれる。丸井くんの周りの、可愛いあの子たちと、同じに。 「ブンちゃん」 「うん」 「今日わたしのお家、誰もいないの、来て」 丸井くんに手を引かれて家へ向かうわたしは、きっと世界でいちばん可愛い女の子。鏡の中のわたしも笑う。 20120116 |