~2015 | ナノ


雨が降っている。周りの生徒たちが帰っていくのを見守りながら、わたしは動けないでいる。傘を忘れたからだ。天気予報は見てきた。雨が降ることを知っていた。知っていてわざと忘れた。こうやってわたしが傘を忘れるというドジをしたら、優しい柳くんが傘に入れて一緒に帰ってくれると思ったから。今日はテニス部もお休みらしい。とにかくこんなチャンスは滅多にない。だからわたしは待っていた。困っているクラスメイトを助けてくれる、優しい柳くんを。



「どうした?」


予想通り、わたしを見つけた柳くんが声をかけてくれた。


「傘忘れちゃって」
「そうか」
「どうしようかなあって」
「大変だな」
「濡れて帰るしかないかな」
「そうだな」
「…」
「…」
「…」
「じゃあおれは帰るぞ」
「え」


想像と違う展開に思わず声を上げる。すると柳くんはこっちをみて笑っている。それは優しい笑顔なんかじゃなくてどことなくわたしを蔑むような、そんな笑顔だった。怖い。


「どうした?」
「いや、あの」
「おれの傘に入れてもらえると思っていただろう」


さすが柳くんとしか言いようがない。全部見透かされていたようだ。羞恥で顔が熱くなる。上ずる声で「思ってましたごめんなさい」と言えば、そんなわたしを見ている柳くんの口角がますます上がっていくのだ。なんか柳くんって思っていた人と違う。


「それで?」
「え」
「どうするんだ?」
「…濡れて帰ります」
「…」
「…」
「…別に傘を持っていたってお前が一緒に帰りたいと言えば一緒に帰ってやらないこともない」
「え」
「で、どうする?」
「一緒に帰ってくださいお願いします」


柳くんが傘をさす。わたしは濡れて帰ろう、そう思ったのに、柳くんは、ほら、と言ってわたしも傘に入れてくれた。わたしが思い描いてた優しい柳くんはいなかったのに、そんなふうに優しくされたら嫌いになれないじゃない。


20120426/柳相手に計算高い女にはなれない