~2015 | ナノ


真っ黒。わたしの頭の中。真っ黒。きっと丸井の頭のなかはピンクで、今にも心臓が踊りだしそうなくらいに幸せなんでしょう。むかつく。ほんとうにむかつく。そのにやけきった顔面を殴ってやりたい。ぎゅうっと固く握りこぶしを作ると、少し長く伸ばした爪が手のひらに食い込んで痛い。

痛い、痛い、痛い。


「ブンちゃーん」
「クッキー作ってきたの」
「あたしはパウンドケーキ」
「まって、あたしも持ってきた」
「あたしもあたしも!」
「大丈夫、全部残さず食ってやるよい」


群がる女子ABCD。甘ったるい声で丸井を誘惑している。この子たちは確かに可愛い。そんな可愛い女子が自分のためにお菓子なんて作ってきてくれたらそりゃあ笑みもこぼれるだろう。でも、でも。なんか可笑しくない?



・・・


「で、なんで不機嫌なの?」丸井は何とかちゃんにもらったクッキーを貪り食いながらわたしを見ている。わたしが怒っている原因が今まさに丸井が手にしているお菓子の山だということに気づいていないのか。「別に普通だし」と不機嫌丸出しの声で答える。気づいてほしいからだ。


「お前もくう?」


そういって差し出されたのは何とかちゃんが作ったケーキ。まじでこいつ馬鹿なんじゃないの、天才的とか、あきれる。


「いらない!」
「マリちゃんがおれのために作ったケーキだぜ?」
「だからいらないの!」
「嫉妬?」
「…」
「…」
「ばか!!」


丸井には乙女心がわからないらしい。嫉妬してるんだろぃ、と楽しそうにわたしを見ているそこら辺の女子にも負けないくらいの可愛い顔(しかも小悪魔系)を殴ってやりたい。今日ちょう丸井殴りたい。


「誕生日だからって手作りとか意味わかんないし、彼女が見てる前で手作りのお菓子渡してべたべたさわんのとか意味わかんないし、名前なれなれしく呼ぶ意味わかんないし、マリちゃんに便乗してみんなで群がるのとか意味わかんないし」
「始めたのはマリちゃんじゃなくてリナちゃん」
「そんなのどうでもいいし、わたしにとっては全部おんなじだもん」
「ふうん」
「ていうかいちばん意味わかんないのはでれでれしてる丸井だから!!」
「ほら、嫉妬だ」
「……うるさい!」


わたしが嫉妬しているのがそんなにおかしいのか。丸井はマリちゃんとかリナちゃんとかがお菓子をくれた時よりもにやにやしている。顔がとても熱いからわたしは今赤面しているに違いない。


「で?お前は何作ってきた?」
「…作ってない」
「鞄のなか見えてる」
「…じゃあ作ってきたけどあげない」
「早く出せよ」
「いいじゃんいっぱいもらったじゃん」
「おれはお前からのをいちばん楽しみにしてたの!」
「…はあ?」
「顔赤い」


丸井は本当にずるい。そんなことを言うなんてずるい。わたしの頭の中もピンクで、心臓は軽快に踊りだす。顔もにやけちゃってるかもしれない。単純だなあと自分でも思う。とりあえず、みんなの人気者ブンちゃんは、わたしのことが大好きらしい、なーんちゃって。


20120420/お誕生日おめでとう