~2015 | ナノ




「消しますよー!」


赤也の声がして部屋の明かりが消える。カーテンを閉めて薄暗くなった部屋が真っ暗になり、ろうそくのぼんやりとした明かりだけが浮かび上がる。ブン太が焼いたケーキは生クリームがたあっぷり乗っかっていて、食べちゃうのがもったいないくらいに可愛らしいデザインだ。今日この日を祝福するにはぴったり。


誰からともなく口ずさんだハッピーバースデイのメロディをいつになく張り切って歌う。みんなが彼の名を呼び、おめでとうと言えば、幸村くんはろうそくの火をふうと吹き消した。


「おめでとう」
「ケーキ切るぜい?」
「わたし写メとりたい!」
「あ、ずるい、俺も撮るっす!」
「待ってブン太動くな」
「え、切っちゃった」
「あーもったいない!」
「お前らうるさいぞ!」


実際真田の声がいちばんうるさいよ、なんて思うけれどいつもの光景なので無視して、ぱしゃり、携帯の画面に切りかけのケーキが収まる。ブン太は一秒でも早くケーキを食べたいらしく、早く早くと急かしてくる。


「幸村に作ったんじゃないの?」
「そうだけどさ」
「俺はいいから、ブン太先に食べなよ」
「幸村くんやーさしい!」
「どっかの誰かさんとは違うぜよ」
「え、何わたしのこと?」
「プリッ」
「丸井先輩俺にもください」


わたしたちがぎゃあぎゃあしているのを、幸村たちは優しく見守っている。幸村がくすくすと笑う声が聞こえて、今日わたしたちがここに集まった意味がこうしてバカ騒ぎするためじゃないことに今更気づく。


「幸村、ケーキ」
「ああ、ありがとう」


幸村はいつだって幸せそうに笑う人だなと思う。今日はいつもに増して幸せそうだった。誕生会とは名目だけで、やっていることはいつもと変わらない。それなのに幸村は幸せを感じてくれているのだ。ケーキに視線を落とす幸村に思わず携帯のカメラを向ける。


「撮るの?」
「いい?」
「いいよ」


カメラに気づき顔を上げた幸村が視線をケーキに戻したところで、ぱしゃり、幸村の顔も保存する。幸村はわたしの様子など気にせずに、綺麗にケーキを食べ、時折騒ぐ部員を見つめていた。その幸村の視線の先をわたしもカメラに収める。


「幸村はみんながだいすきなんだね」
「そうかい?」
「だってすごく優しい顔をしてる」
「ふふ、そうか」
「みんなも幸村がだいすきだよ」


わたしの言葉に幸村は照れたように笑った。幸村と居ることは幸せだなと思う。こうやって流れる当たり前の時間が幸せだということに気づかせてくれたのは幸村だから。



「お誕生日おめでとう」




20120305