ひとりぼっちが怖いなんてばかばかしくて泣けてきた。真っ暗闇の部屋のなかで唯一きつい明かりを放つ携帯の画面をじいっと見つめる。アドレス帳に並ぶ文字列はたくさんだけれど、こんな時に会いたい人はたったの一人しかいないのだ。だけれど時計の針はすでに12時を回った後だ。いくらなんでもこんな時間に連絡できるような非常識な人間だと、彼には思われたくなかった。 ピルルルル、と着信音が鳴り握りしめていた携帯がぶぶぶと震えた。画面にはわたしが頭の中でずうっと焦がれていた「柳蓮二」の文字。慌てて通話ボタンを押せば、「もしもし」、彼の声が聞こえる。 「もしもし」 蓮二くんと同じように言葉を返す。わたしの声は驚きや緊張で上ずっていたかもしれない。蓮二くんが小さく笑う声が聞こえた。 「起きていたんだな」 「うん」 「遅くにすまない」 「ううん、珍しいねどうしたの」 「……」 「蓮二くん?」 「声が聞きたかっただけ、というのはだめか?」 「だ、だめじゃない!!」 もう一度蓮二くんが笑うので、つられてわたしも笑う。やっぱり蓮二くんにはわたしの気持ちが全部わかっていて、わたしの気持ちが蓮二くんに浸透しているのではないだろうか。こんな時間に電話なんて蓮二くんらしくもない。それがわたしにはとてもとても嬉しい。 「わたしも、声聞きたかった」 「そうか」 蓮二くんが笑えば、わたしの心の雲は一瞬で晴れるようだ。明日の朝になればすぐに会えるのに、わたしは今すぐにでもその笑顔が見たくなってしまった。 「会いたいな」 真っ暗を想像していた夜道は、月や星が照らして思ったよりもずっと明るかった。蓮二くんには危ないから家まで行く、と言われたけれどなんとなく外を歩きたい気分だったのだ。 「蓮二くん」 焦がれていた姿を見つけて大きく手を振り駆け寄るわたしを、ふわりと笑って彼は受け入れてくれる。 「待っていろと言ったのに」 「早く会いたかったの」 「予想はしていたがな」 やっぱり。「わたしは蓮二くんが、そう予想してることも予想してた」と言うと、蓮二くんの手のひらがわたしの頭をぽんぽんと撫でる。同じ年なのに子ども扱いしているみたいなこの手のひらがわたしは好きだ。そのぬくもりでさっきまでの不安など嘘のように弾け飛ぶ。 「こんな時間に外に出るのも悪くない」 「星が綺麗だね」 「お前といると世界が広がるようだな」 そんなの、わたしだって。蓮二くんが居てくれなければ、こんな綺麗な星空に目を向ける余裕なんてなかった。夜空を彩る星のように蓮二くんがわたしを彩るよ、なんて、くさいセリフも浮かんでしまう。言わなくたって蓮二くんには解るのに、どうしたって蓮二くんを見ていると「好き」と言いたい、と唇がうずいてしまう。 「好きだよ」 「ああ」 「蓮二くんは?」 「わかっているくせに」 「わかってても聞きたいこともわかってるでしょ?」 蓮二くんの左手がわたしの右手を捕まえる。冬の夜は冷たくて鋭いけれど、右手から伝わるぬくもりが「しあわせ」なのだと思う。わたしは目を閉じて、蓮二くんの温度を感じる。 「俺も好きだ」 まるで子守唄みたいな心地よい声だ。今夜はよく眠れそう。 スターダストララバイ 20120224/three sheep |