※近親相姦 ターコイズブルーのマニキュアを買った。凛によく似合うと思ってよく考えずに買ってしまった物だ。家に帰って袋を開ければ、綺麗な綺麗な青色はわたしには少し似合わないことに気づく。衝動買いはよくないな、と呟く。そもそも凛は男の子だからマニキュアなんて使わないのだ。 指先に塗るのは恥ずかしくて、それでも気に入ったこの色を身に纏いたくて、足の爪に塗ることにした。だれにも見せないなら似合わなくたって構わない。 「窓あけろよ」 ガチャリ、と急に部屋の扉があいたと思えば凛が入ってくるなり文句をこぼす。 「足、やってるから動けない」 そう言うと凛の視線がわたしの足元へ向く。似合わないって笑われるかと思ったけど、凛は「へたくそ」と言って笑った。 「やー不器用だな」 「…凛ちゃんやってよ」 ほら、と凛がわたしからマニキュアを奪い取る。男にしては細く綺麗な、わたしよりずっと器用な指が、わたしの爪を綺麗に彩る。はみ出さず、むらも出来ない。凛は器用だ。 「この色凛に似合うと思って」 「わん?」 「うん、海の色」 「でも俺マニキュアなんて使わない」 「だよね」 口を動かしながらも器用に手を動かして、わたしの爪を青く染めていく凛の手をじいっと見つめる。やっぱり、わたしなんかよりずっと似合いそうだ。この海みたいに綺麗な色は、きっとこの手によく似合う。 「ほらできた」 「おおーさすが凛ちゃん」 「つぎ、手やる?」 「うん、絵描いて」 「何がいい?」 「凛のセンスに期待」 凛はうーんとうなって、わたしの左手を捕まえる。 「別のないの?」 「待って出すから」 「やーにはこっちのが似合うよ」 たくさんあったマニキュアの中から凛が選んだのはオレンジだった。 「じゃあ青は凛ね」 わたしの左手は凛の手の中なので、空いた右手で凛の足の爪に色を乗せる。不器用な右手だなと思う。凛がしたみたいに綺麗に色が乗らない。これなら凛が自分で塗ったほうがきっと良かった。だけれどそれじゃあ意味がない。わたしがやることに意味がある。 「できたよ」 「汚い」 「片手だし」 「まあ見えないしいっか」 「うん」 「こっちもできた」 「わー可愛い!」 凛がわたしの爪に描いたのは、真っ白なお花だった。オレンジ色の爪に清らかな白が良く映える。 「太陽の色だね」 「似合うよ」 「凛は海でわたしは太陽だね」 「うん」 まだマニキュアの乾かない凛の足の爪をわたしのオレンジがなぞる。「手、青くなるだろ」と凛が諭すけれど、わたしは触れてはいけない凛に触れたくて仕方なかった。 「太陽と海は触れ合えないけど、わたしは凛に触れられるよ」 凛は何も言わずにわたしと同じように、わたしの指先をなぞる。自分以外の誰かに触れられる感触がくすぐったい。 「姉ちゃん」 「なに?」 「好きだ」 「わたしも、好き」 凛の指先を絡めとる。蓋を開けたままのマニキュアの瓶が倒れた音が聞こえたけれど、そんなことどうでもいい。横目に映るオレンジと青色はぐちゃぐちゃに混ざり合っていて、わたしたちもそんなふうに簡単だったらよかったのにと思い、凛にキスをする。 「誰にも、内緒ね」 20120223/title夜に融けだすキリン町 |