揺らさないように、

崩れないように、


急ぎつつもゆっくり走る。


大好きな、あなたのもとへ。



























にやにやしながら通り過ぎる同僚たちを無視して、

ついた目的の部屋。


扉の前で、走ったせいで乱れた身なりを整える。

と、ふいに扉が開いた。



「…遅い」


「ごめん、ごめん」



不機嫌な顔に笑いながら返事をして、促されるまま中に入っていく。





「恭弥、これ…」



いつものように、畳の上に二人並んで座って、持ってきた箱を見せようとしたときだった。


一瞬にして恭弥に押し倒され、熱っぽい視線で見られる。



「亜依…」


わ…



ぼんっと顔が一気に熱くなって、心臓が破裂しそう。



「まって…きょ、や
違う、こういうこと…しに来たわけじゃ…」



首筋に顔をうずめて舌を這わせる恭弥の胸を押して抵抗するも、力が抜けて大して意味がない。



「ほん、とに、まって…
きょ、や…恭弥!」



洋服のなかに手を入れてまさぐり始めた恭弥に本気で嫌がってることが伝わったのか、一旦手を止めてあたしを見る。



「誕生日、祝ってくれないの」


そう、今日は5月5日。
恭弥の誕生日。



「あたしがプレゼント、なんて恥ずかしいこと、出来るわけないでしょ!」


「出来る、出来ないの問題じゃないよ」



再び事に及ぼうと迫ってくる恭弥を押し上げて。



「問題なの!
…てか、昨日、ちゃっかりケーキおねだりしといて何言ってんの!」



ついさっき、仕事を早めに終わらせて買ってきたケーキ。

崩れないように、そっと走ってきたのに。



「…それも食べる」


「誕生日プレゼントは普通一人一個でしょ!」


「じゃあ亜依のほうがいい」


「…っ」



真顔でそんなこと言われて、とっさに言葉がでない。


そんなあたしに気を良くしたのか、恭弥は綺麗な笑みを浮かべて耳に口を寄せてきた。



「僕は、亜依が食べたいよ」



妙に色気のある声で囁いて、そのまま首に噛みつかれて。



「いっ…」


「…咬み殺してあげる」



もう、何も言えなかった。






****







「ほんとにみんなで食べていいの?」

「はい、どうぞ!
恭弥が食べたいっていったので買ってきたけど、たべなかったので」

「恭弥さんは自由だからねー…」



ボスが苦笑しながら、あたしが持ってきたケーキの箱を開けると…。



「え?」

「はぁ?」

「かわいいのな」

「雲雀氏がこんな…」

「極限どうした、雲雀ー」

「なんかイメージが…」

「クフっ、クハっ、クハハハ」


そこには…、恭弥のペット、ヒバードの形をケーキが。



「かわいいですよねー!
恭弥がどうしても食べたいっていうからわざわざ頼んだんですよー」


「何言ってんの
僕そんなこと言ってないし」


「しらばっくれるのはカッコ悪いですよ」


「…咬み殺す」


「あーもう、二人ともやめっ!」



獄寺さんと山本さんが二人を止めているなか、ボスガこっそり聞いてきた。



「…で、本当は?」


「うそですよ
あたしが、頼みました」


「やっぱり」


「昨日の仕返しです」



ボスと二人で笑いあいながら、昨日、言い忘れてたことに気が付いた。



「恭弥、誕生日おめでとう!」







お題 確かに恋だった様より





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