いつもの帰り道。


「…それ、どうしたの?」


隣で歩きながらふいに目についた、腕の傷。


よく見ればほかにもたくさんあって。



「あー…、転んじゃって」



明らかに嘘ついてるのがわかる笑顔に、勝手に傷つく。

僕に隠し事なんて…。


でも、
転んだだけじゃそんな傷、つかないよ
言おうとした言葉を呑み込んだ。


君が何の躊躇いもなく話せるまで待とう、と。


…嘘。
本当は、君の困った顔を見たくなかっただけ。
君から嫌われるのが、怖かっただけ。



「そう。気をつけなよ?」




だから、素っ気なく返すことしかできなかった。


でも次の日、僕は聞かなかった事に後悔したんだ。








「委員長!」


いつもの応接室で書類を片付けていると、慌てた様子で草壁が入ってきた。


「五月蝿い、何?」


「はい、それが…」


僕は草壁の言葉を聞いた瞬間、応接室を飛び出していた。





何で昨日、無理にでも聞かなかったんだろう





並中が今日はとてつもなく広く感じる。


目指すは一番端にある、屋上に上る階段。






あと少し。




そう思った瞬間、甲高い笑い声が聞こえてきた。



「あんたが雲雀さんに近づくからいけないのよ!」

「可愛くもないくせに色目使いやがって」

「早く雲雀さんと別れろって言ってんだろ!」





止むことのない罵声と共に、微かな呻き声も。




階段を上り終えても気づかない女たちは、もう気を失っている1人の女子を3人で蹴り続けている。





「…君たち何やってるの」




自分も聞いたことないような低い声が出た。



「ひっ!」

「雲雀さん!」

「に、逃げ…」



真っ青になりながらも逃げようとする3人をジロッと睨み付けて顔を覚える。
先にこっちだ。











「亜依…」



手を体の下へ滑り込ませて抱き上げようとすると、わずかにまぶたが動いた。



「亜依!?」


「ん…」




痛みに顔を歪めながらも、僕の顔を見るといつものように笑って、




「恭弥…、助けてくれてありがと」




お礼の言葉なんか言うから。



思わず僕は力任せに抱きしめてしまったんだ。




「…痛いよ、恭弥」



文句言ってても、背中に回ってくる腕がどうしようもなく愛しくて、自分がどうしようもなく情けなくて。




「…ごめん」



そう言った自分の声が思ったよりも小さくて、またさらに情けなくなる。





「…恭弥が謝ることじゃないよ、私が言わなかったんだもん」


「でも、もっと早くに気づいていれば…」



亜依は肩に顎を乗っけたまま首を降る。


「うぅん、私は気づいてほしくなかったの。…恭弥に心配掛けたくなかった」



そこで緊張の糸が切れたのか、徐々に涙声になっていく。



必死に涙を堪えようとする空気が伝わってきて。




「…泣いていいよ」



僕はできるだけ優しく声をかけた。












君は強いね


…でも、

もっと僕を頼ってよ



こんな弱い僕だけど、


君が心配でたまらない

君が愛しくてたまらない








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