いつもより多い、積み重なる書類の山が、早くしてー、と急かすように一人の男、沢田綱吉を囲んでいる。


やってもやっても減らない書類たちに行き場のないイライラを募らせながら、深いため息を吐いた。

ヘタすれば、その息で書類たちが飛んでいきそうだ。


と、そこへ



「ボス〜、仕事はどうでしょうか?」



清々しいくらい黒い笑みを浮かべた少女がやってきた。



「…これ、梨奈の仕業だろ」

「さぁ?」


またまた深いため息。
そんな綱吉を見て楽しんでいる梨奈は、



「ボス☆頑張ってください!」


パチッとウィンクすると、机の前にある椅子に座って机に頬杖をついた。



****



##NAME1##と綱吉が出会ったのは3年前。

はね馬、ディーノがこの屋敷に来たときだった。

ディーノの護衛として付いてきた梨奈は綱吉と同い年ということから、すぐに打ち解けて、ちょこちょこ遊びに来るようになった。

ボンゴレの幹部になっても梨奈の綱吉に対しての態度は変わらなかった。
二人ともそれを望まなかったからだ。

一応敬語を使ってはいるが。





「梨奈、手伝え」

「えっ!?ヤですよ〜。ボスの仕事なんですから!自分でやってくださーい」


にっこにこしてる梨奈。
手伝うような素振りも、悪びれる風もなく、ただ単純に綱吉をいぢめて楽しんでいるようだ。


「お前…毎日飽きないなぁ」

「何がですか?」


本当は分かってるくせに…



内心そんなことを思いながらも、面倒くさいから梨奈には言わない。


いつも真面目に答えても、ちゃんとした答えは返ったこないからだ。




気分を変えようと深呼吸し、


「梨奈、なんで俺んとこ毎日来るの?」


何気なく聞いてみた。



「何でって……仕事だからです!」



ぷいと顔を背ける梨奈の顔は、なんとなく赤く染まっているように見えた。と、いつまでも笑っている梨奈。


ホントは本気だったのは、綱吉には内緒だ。
そんなことして今の関係を壊したくない。



梨奈のそんな気持ちとは裏腹に、綱吉はみるみると機嫌が悪くなった。


「…ツ、ツナ?」


梨奈がためらいながらも恐る恐る話しかける。


「ん?」

「…何で機嫌が悪いの?」

「は?悪くないよ、どこ見て言ってんの」


いや、確かに顔は笑ってるけど…。


「顔が笑ってるのに笑ってないよ!」


やだよ〜、怖いよ〜
綱吉に聞こえるように一人言を言うがまったく効果がない。



「何で機嫌が悪いの?おーい、綱吉くーん」


いざ、もう一度挑戦!
すると、


「当ててみて」

「へ?」

「だから、俺が怒ってる理由を当ててみて」



ん?まてよ…?

「やっぱり怒ってるんじゃん!」

「いいから、当てて」


綱吉は梨奈の言葉を無視して梨奈の目の前に立った。
なぜか真剣な顔して見つめてくる綱吉に、心臓がうるさい。



「えっとー…、ツナの仕事増やしたから?」

「違う」

「あっ、敬語じゃなくなってたから!」

「違う」

「え〜…?」



全然わからず、うー、とうなだれる梨奈の肩に綱吉が手を置いた。


「まだわかんないの?」

「うん?」

「…さっき梨奈が笑い飛ばしたから」

「何を?」

「迷惑とか、迷惑じゃないとか」




これを聞いて一気に顔が熱くなった。
今絶対真っ赤だろう。



(なんでそこを気にするの!?一番気にしてほしくなかったのに)



「…梨奈?」


綱吉の呼ぶ声にはっとする。


「…あんま、意味はないよ。あれは」



我ながら言い訳じみたことを言っているのは分かっている。



「特に意味はないの、だから気にしないで」


「ふぅん…」

綱吉は納得していないようで、ジトーと梨奈を見ている。


「…じゃあ俺が意味のあるようにしてやる」

「はい?」


投げやりな感じの綱吉の口から零れた言葉に、唖然とした。




「俺、梨奈のことが好きだよ」




「…はい?」


えっ、好き?
綱吉が?
誰を…?


真っ白な頭でのろのろと考える。



「もう…」


一回、言って
言おうとした言葉は何かに口を塞がれたことで言葉にならなかった。


目の前には綱吉の顔。
はちみつ色のふわふわな髪の毛が顔にあたってこそばゆい。



キスされたと気づいたのは綱吉が離れた後だった。





「…今の…」


不意に、キスが終わってからずっと目を合わせなかった綱吉と目が合った。

いつものふざけあうときの顔とは違う、梨奈の知らない、男の顔。




「…返事は?」





「…ッ、知らない!」




言いながら綱吉に抱きついた。












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