たくさんの人に囲まれて笑う貴方

誰にでも優しい貴方


そんな貴方が好きだった


でも、どうしてだろう

今ではそんな貴方を見るのが嫌なの

あたしだけを見てよ

















それは普通の日だった。


ボスはメイドや執事、部下に研究生までもを交えて話す時間を作っている。

みんなを大切に思うボスらしい行動だし、たまに重要な情報も入ってくるから。



そのときにあたしはみんなの前でボスに拳銃を向けたのだ。



「梨奈!?」

「おい、テメエ何してやがる!」


獄寺さん、山本さんがボスを庇うように立ち、みんなは息を呑んだり、悲鳴を上げたりしている。

ボスは表情を変えずにあたしを見ていた。


「ボスが悪いのよ」


一言言えば関を切ったように次から次へと想いが溢れ出す。


「ボスがあたしを見てくれないから!」


でも胸がいっぱいで、それしか言えなかった。


しん、と静まり返った部屋。どうせみんな侮蔑してるんでしょ

そんなことでボスの命を狙うなんてって

でもあたしにばそんなことじゃ゙済まされなかったのよ



数秒経っただろうか。

ふいにボスが口を開いた。



「…見てるよ」


「……え…?」



獄寺さんと山本さんを手で制して少し前に出る。



「俺は、梨奈のこと、ちゃんと見てるよ」


「嘘よ!」



胸が苦しくて、涙で前がぼやける。

その間にあたしが向けてる銃に気にせず、ボスはどんどん近づいてきていた。



「みんなと同じ優しさならいらない!

その他のひとりになんてなりたくない!

あたしの゙見る゙と貴方の゙見る゙は違うのよ!」



そしてボスを狙って撃った。

その銃弾はボスの顔を掠め、後ろにいた山本さんに斬られた。


「…っ」



自分で狙って撃ったのに、動揺が広がる。


あぁ、
これでもう確実に終わった



「梨奈、」端正な顔に滲む血を拭わずにあたしを呼ぶボス。


顔を見るのが怖くて、
このまま終わってしまうのが嫌で、

押し潰されそうなあたしはもう考えるのを止めた。

想いのままに行動する。



そして気づけば、ボスを押し倒していた。



「…っ!?」



いきなりのあたしの行動に対応出来ずにそのまま二人で倒れ込んで、ボスの唇に自分を押しつけた。

ガチッと歯が当たって鉄の味が広がる。


気にせずキスし続け、唇を離すと抵抗しなかったボスを見下ろした。



「どうして…どうして抵抗しないのよ!」



キス出来たはずなのに、モヤモヤは晴れない。

虚しくなってまた涙が溢れ出す。



「…」


「あたしを見て、なんて無理なことくらいわかってる
突き放してほしいのに!
出ていけって言ってほしいのに!
何の「梨奈」


「あたしに気「梨奈」


「ボスな…」



何度遮られても言おうとしたことは、息が詰まって言えなくなった。

ボスに、強い力で抱きすくめられたから。



あたしが動かなくなると、ゆっくり、離れていく。


そして、あと数センチで唇が付くんじゃないか、そう思うような距離でボスの顔が止まった。


「俺は、梨奈を見てるよ」



ボスの目に映る、涙と鼻水でぐしゃぐしゃなあたしの顔。

ほんとに、映ってる


でもそれだけじゃなくて。

あたしが映る、その瞳の奥にあたしが求めていたものも。





「…好きです、貴方が」



次は違う意味で泣き始めたあたしの頭を撫でる貴方が、微笑んだのが見えた。






彼の笑顔にかき消された

あたしのどす黒い気持ち







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