集中。 集中。 頭の中でそう唱えて、1000メートルも先にある的へ銃を構えれば、周りで一緒に練習している仲間の話声・銃の撃つ音が聞こえなくなり、世界は彼女だけになる。 そのまま、狙いをすまし撃った銃弾は的の中心を撃ち抜いた。 …いや、中心から少し下にずれたかな そう確認して気を抜けば、急に耳に入り込んできた喧騒。 「やっぱあいつスゲーな」 「日本支部から引き抜かれただけあるよな」 「どうしたらあんななるのかな…」 「目が良さそうだよねー」 この場にいるほとんど、と言ってもいいほどの人が彼女を見ていた。 ボンゴレの射撃場に入れるのは、世界でもほんの一握り そう言われるこの射撃場で一際目立つ彼女は梨奈。 1か月前に日本支部からリボーンが引き抜いてきた、稀代の新人だ。 1か月しか経っていないのに、彼女の名は知らない者はいないほどだった。 さっきの的当てだって、あそこまで中心に当てられることが出来るのは彼女だけだ。 ───いや、あと一人いた。彼女が来てからこの射撃場にたまに現れるようになった男。 ハニーブラウンの髪色に、整った顔の、男だ。 そしてその男は、今日、現れた。 「さっき、惜しかったね」 周りの喧騒に耳を貸さず、もう一度撃つ準備をしていた彼女に話しかけた男。 惜しかったね!? みんなそう思っただろう。 さっきの彼女の的当ては、少し下にズレたものの、ほぼ中心だったのだから。 「…またあなた?」 彼女は突然現れた男を見て、気怠そうに溜め息をつく。 「──貸して」 男はそれを軽く笑顔で受け流すと、彼女の持っていた銃を手に取った。 すっ、と流れるような動きで銃を構え、狙いを定める。 全員の視線は男と1000メートル先の的へ。 パンッと乾いた音は静寂のなか、とても響いた。 そして銃弾は吸い込まれるかのように的の中心を撃ち抜き、どよめきが起きる。 年は梨奈やみんなと変わらないように見えるし、こんな、凄い奴だったら有名にならないわけがない。 なのに、誰一人、男のことを知らない理由は…? みんな思った。「…あなた、今のいつから出来るようになったの?」 「んーと…3年前くらいかな」 さらにどよめきが大きくなった。 ボンゴレの射撃場は20歳からしか入れないはず。 男は高く見積もっても21歳。 3年前には出来るようになっていたとはどういうことか。 「あなた何歳よ?」 「22歳」 「3年前てどういうこと?」 「だって俺、リボーンから叩き込まれたし」 2年前にはもう、ここで習うこと習い終わってたよ そう言う男の言葉はもうみんなには届いていなかった。 リボーンて あの、リボーンだよな あの最強のヒットマンを呼び捨てとは! どよめきは大きくなるばかりだ が、 「あなた何者なのよ!」 梨奈の言葉によって静かになった。 聞き逃さないようにみんな耳をすませる。 と、男は妖しく笑って、 「un agnizione」 そう言うと、去っていった。 * * * 『では次は、10代目から』 今日、訓練生の梨奈たちは広い部屋へと集められた。 なんでも、後日、訓練生たちの中から隊に入れる者が選ばれるらしい。 みんな、憧れの守護者たちに会え、興奮している。 そして次は、ボスの番だ。 みんなが心踊らせ待つなか、入ってきたのは… あの、男だった。 『みなさん毎日訓練お疲れ様 俺は頑張る奴を選びたいと思ってる 力より気持ちだ 気持ちがあれば乗り越えられる あと数日間、頑張って』 部屋中に響く、男の声。 呆然と顔を見ていたら、目があった。 『Capito?』(わかった?) そしてまた、男は ──沢田綱吉は妖しく笑った。 「un agnizione」 (いつかわかる) それは絶対予告の微笑み |