隣の席


高校の教室。

机を並べてみんなで授業。


何てことない、いつもの日常。


そして、今は5限目の現国。

白髪混じりのおじいちゃんの授業は退屈で、みんなの頭はグラグラと揺れている。


でもなぜか今日は全然眠くならない。



(退屈だな〜、
何かすることないかな)



視線を走らせて、すぐ近くに止まった。


(…沢田くん)


隣の席の沢田綱吉くん。
こちらに顔を向けて寝ている。


かっこよくて、大人っぽくて、何でもできる、女子の憧れ。



わたしはメンクイとかじゃないけど、



(ホント、かっこいいな)



ついついじーっと寝顔を見つめてしまって。


沢田くんの瞼がゆっくり開いた。



(どうしよ…目あった)



寝顔を見てた、なんて知ったらどう思うかな?


でも、目を逸らすこともできなくて。



「…おはよ、上田さん」



寝ぼけた目で言われた。



私の名前知ってたんだ…


みんなに騒がれてる沢田くんはいつも無表情で、仲良い男子の前でしか笑わないから、全然目立たない私の名前なんか知らないと思ってた

から、思わず言っちゃったんだ。


「おはよう、…沢田くんって私の名前知ってたんだね」



「そりゃ知ってるよ、
同じクラスだし、だいたい隣の席だろ」


ははっ、と笑う。



うわ、
なんかイメージが違う



「そうだね、
でも沢田くんって女子の憧れの遠い人、みたいな認識だったからびっくりした」



ごめんね?失礼で
と笑い返すと、沢田くんはムスッとしてて。



「…どうしたの?」



何か変なこと言ったかな?


恐る恐る聞いてみた。



「俺、それイヤだ」


「え?」



何がイヤ?



意味が分からなくて聞き返す。



沢田くんは苦笑いして、

「その、女子のなんとか、ってやつ」

と言った。



なんとか?
……憧れのこと?



「…イヤなの?」



沢田くんはコクンと頷く。


「だって、俺、そんなに大人じゃないし、そんなののせいで全然知らない人から…言われたりするし」




゛言われたりするし゛
多分それは告白のこと。


顔をしかめている沢田くんはホントにイヤみたいで。


…沢田くんには言えないけど、かわいいなぁ、と思ってしまった。



「…何笑ってんの」



ついつい顔が緩んでいたらしい。
沢田くんがじとっと見てきて。



「なんでもないよ!」



まだ笑っている私を見て沢田くんは諦めたようにため息をついて前を向いた。



そういえば授業中だったな、
思ったけどもう頭に入らない。


前を向く沢田くんの横顔、寝ていたときのかわいい表情とは違って、きりっとしたかっこいい表情。



私は少し背筋を伸ばして。


沢田くんの耳に口を近づけた。


コソッと耳打ち、



「私がホントの沢田くんを見ててあげるよ」










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