「よろしくお願いしまーす」
「お願いしますっ」
「よろしくお願いします」


スタジオの入り口。

挨拶が飛び交い、人が行き交う中、意識しなくてもすぐ見つけてしまう、輝く人。

恋人という欲目を抜きにしても、きらきら輝く翔くんは、st☆rishのみんなと笑いながら話していた。










1年前、番組の共演で知り合ったあたしと翔くんは、こっそりこっそり、秘密の恋を育んできた。

翔くんは大人気のアイドルだし、あたしもまぁそれなりに売れたタレントで、見つかったらスキャンダルになるのは間違いなかったから外でデートなんて、数えるぐらいしかしてない。

でも互いの家を普通に行き来するようになったころ、あれ以来初めて番組で共演することになった。

バレるといけないからあんまり話さないでおこうね、と二人で言って笑ったけど…でも!



まさかの収録中の席が隣なんて!


バラエティー番組だから翔くんが笑ったりコメントするたびに肩があたったり手があたったりする。


イスとイスの間隔が不自然なほど狭くて、あたるたびにおかしいくらい心臓が跳ね上がるし。
いつもはこれくらい普通なのに、どうしたの、あたし。


そんなことをぐるぐる考えていると、



「あれー、なんか瑠璃ちゃん顔赤くない?
どうしたのかなー?」



突然司会者の人に振られて。



「え、あっ、えっと、あたし笑いすぎると赤くなるんですよねー」


なんて、笑ってごまかして。

司会はお笑い芸人さんだからうまく笑いに変えてくれたけど、最初きょどっちゃったからヘンに思われたかも。


そう思ってる間も翔くんはよくあたってくるし。

もう、翔くんあたってこないでーっ!








その後もあたしの苦労は続いて、やっと10分間の休憩になった。

休憩が終わった後もまだ収録は続くけど、とりあえず今はリフレッシュして、速い鼓動も赤い頬も、落ち着かせる。


翔くんに文句言いたいけど怪しまれちゃいやだし、翔くんがあたるだけでどきどきしてるのがバレると翔くんが調子にのるから、ぐっとこらえて続く収録へ挑むことにした。



「そろそろ収録始まりまーす」



この声にみんなそれぞれスタジオへと戻っていく。

あたしも、最後に深呼吸していけば、ほとんどみんなスタジオに入り終わった後で。


小走りでスタジオへ行っていると後ろから誰か来て、追い越される間際、



「意識しすぎ、ばーか」



耳元で囁いた。

そのまま走っていって出る直前、翔くんは振り向いたかと思うといたずらに笑って。


あたしはというと囁かれた所から足が動かなくなって、ただ呆然と立ちつくすだけ。




「安藤サン、早く来ないと始まっちゃいますよ?」



そう言うと、さらに笑みを深くしてスタジオへ出ていってしまった。



「…っ」


わかってるよ、そんなの。


あたしも急いで走り出す。

スタジオに出れば翔くんは、勝ち誇ったような顔でイスに座っていた。




ずるい。
あたし、今絶対顔真っ赤だ。






いじわる彼氏

(あたってたのだってワザとだし)
(赤くなってる、て分かってやってたけど?)









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