「瑠璃、ここ紙くずがついてるぜ」


「え、?」


「違う違う、ここ」



俺が示した場所とは逆のほうを探った瑠璃を笑いながら手を延ばして、髪についていた紙くずを取りさった。

瑠璃の長い髪は途中まで紙くずについてきたが、すぐにさらさらと落ちていく。



「あ、ありがと」



ふにゃと笑う瑠璃。
普段はぱっちりとした大きな瞳がゆるく細められて、それがもう、とてつもなくかわいい。

そんなきれいな笑みを浮かべてお礼を言われると、
髪初めて触った、とか
なんか良い香りがする、とか
考えてる自分が、なんか疚しく感じて、とったに声が出なかった。



「…おう」



なんとか絞り出した声は思ってたよりも小さくて。

しっかりしろ、俺!
男気はどこいった、俺!



「あ、…来栖くん」


「…ん?」



脳内で自分にあわあわと突っ込みを入れてたせいで少し反応が遅れてしまった。

慌てて瑠璃に視線を向けると、瑠璃の手が目の前に迫ってきていて、そのまま髪に延びていく。



「来栖くんもついてた」



また、ふにゃっとした笑顔で。

もうだめだ。
もう、だめだ。

その笑顔を見た瞬間、何かが吹っ切れる音がした。



「…ちょっと来て」


「え?どうしたの?」



華奢な手首を掴んで教室から連れ出す。

レンたちがあーあ、おチビちゃんたら、とか言ってるのは聞こえないふり。



「く、来栖くんっ?」


「…っ、瑠璃っ!」


「はいっ!」



人気がないところまで連れてきて振り向き様に名前を呼べば、びくっと肩を揺らして返事をする。



「…」


「…」


「…」


「…どうしたの?」


「あー…えっと、」



勢いで連れてきたはいいけど心の準備が出来てるかと聞かれればそれは別だ。



「ふふっ、顔真っ赤だよ?」



ほら、またその顔。
ついでにこてん、と小首を傾げるのは反則だろっ!



「だーーーーっ
一回しか言わないからしっかり聞いとけよ!」


「うん?」



だから、それは反則だって!

限界まで息を吸って、瑠璃を見つめる。



「俺は、お前のことが好きだっ!」



途端に瑠璃は顔を朱に染めて。

わたわたと手を振ったり回ってみたり、落ち着きがない。


「……う、うそだっ、そんな、…来栖くんが、あたしなんか…」


「うそじゃねぇよ、好きだ」



動く肩を捕まえて、もう一度。



「…」


「…信じた?」



大人しくなった瑠璃はこくりと頷く。



「……顔真っ赤」


「…来栖くんだって」


「…で?」



返事を催促するように視線を向ければ目が潤んでて。



「…あたしも、来栖くんのこと、好きです」



またふにゃりと笑う。
その笑顔は、いつもに増して、かわいかった。






笑顔に秘めた恋心

(レディ、おチビちゃんに向ける笑顔だけは違うんだよねぇ…)
(うまくいってるといいですね)







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