窓から春独特の柔らかな日差しが差し込み、部屋を明るく照らしている。


学校が休みの日曜日。

あたしはベッドに座って、翔ちゃんは壁に背を預けて、何か話をするでもなく雑誌を読んでいた。

朝からずっと一緒にいて、恋人同士だけど、そんな甘い雰囲気にはならなかったのは、
愛に飢えてるわけじゃないし、一緒にいれるだけで満たされていたからだと思う。


でも、

ずっと指していた光がふいに遮られて暗くなって読みにくくなったので雑誌から顔を上げれば、すぐ前に翔ちゃんが立っていて。



「翔ちゃ…、」



どうしたの?と訪ねようとした声は、音にならなかった。

翔ちゃんがキスしてきたから。

触れるだけのキス。
でもただ押し当てただけのものじゃなくて。

すぐ離れていくのが寂しいと思うくらい、甘かった。



「…翔ちゃん、」


「ん?」


「どうしたの?」


「いや…ただしたくなっただけだけど?」


「…」



さらっと言った翔ちゃんは、ほんとにそれだけだったみたいで、ベッドにもたれかかって、もともと読んでた雑誌を読み始めた。



──したくなっただけって…急にされるこっちの身にもなってよ。

無駄に色気振りまいて終わりとか…。



「…翔ちゃん」



不満の声をあげてアピールしてみる。



「………」



ゆっくり顔をあげた翔ちゃんは、しばらくあたしの顔を眺めて、意地悪そうに笑った。



「瑠璃、」


「な、に…?」



艶の含んだ声で呼ばれて喉が詰まる。

そのまま顔が近づいてきて耳元に寄せられた。



「…エロい顔
もの足りなかった?」


「な…」



さっと頬に朱が挿すのがわかる。

とっさに反論しようとしたけど、また、音にならなかった。

翔ちゃんからのキス。


ただ、

さっきのと違うのは、触れるだけじゃなくて、深い深い、キスだったってことかな。












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