ぴぴぴぴっ


小さく響く電子音は、朦朧とする中でやけに大きく聞こえた。


「…38.4、」


月宮先生に休みますって連絡しなきゃ
もう学校始まっちゃう…



ふらつく足どりでケータイを取ってベットまで戻ると、熱で休みますとだけ伝えて、月宮先生が詳しく聞こうとしている途中で電話を切った。


月宮先生ごめんなさい
今はもう余裕ないです



そのままベットに潜り込んで、意識を手放した。















「…ん、……」



目を覚ましたのは12時すぎだった。

まだ怠いけど寝る前よりはだいぶ良くなっている気がする。


ふと目にしたケータイはぴかぴかと点滅していて。


…メールきてる?



「うわぁ…」



開いてみれば月宮先生からのたくらんの着信とメール。


瑠璃ちゃん!、とか
大丈夫なのっ!?、とか
熱何度あるの!?、とか

心配顔の月宮先生が思い浮かびそうなくらいの量、来ていた。

あのとき限界が来ていたとはいえ、電話を切ったのはだめだったかな…



そんなとき、こんこん、と少し控え目にドアをノックする音が聞こえた。


「瑠璃?」


「翔くんっ!?」



聞き慣れた声だけど、今聞くとは思ってなくて、勢いよく起き上がる。



「開けるぜ」


「えっ、ちょ、まっ…」



起きたばっかで髪ぼさぼさだし
パジャマのままだし…


止める前に入ってきてしまった翔くんから隠れるように布団に潜り込んだ。



「熱出たんだって?大丈夫か?」


「う、うん」


「今何度あるんだよ?」


「え、わかんないよ」



今起きたばっかだし、と言っている途中、ベットの近くに座った翔くんの手が伸びてきて、反射的に目をつぶったら、



「!」


「んー、やっぱ熱いな
37度すぎくらいはあるんじゃね」



その手はあたしのおでこに当てられて。



「あ、メシ持ってきたけど食べれるか?」


「あ、…後で食べるね
ありがと」



なんで平然としてるの!?
翔くんにとっては普通のこと!?


頭の中でぐるぐる考えていたら、ほんとに目の前も回ってきた。



「…お前、ほんとうに大丈夫か!?
なんか焦点あってねぇぞ」


「ごめん、翔くん
ちょっと考えこんだら頭が…」


「ばか、熱出てるときに考え事なんかすんな」「うん…」



翔くんのことなんだけど、とちょっと言い訳っぽく呟いたら、



「わぁ」



翔くんから布団を顔まで被せられた。



「ちょ、翔くんっ」



ワケがわからず布団から顔を出すと、すぐそばに翔くんの顔が近づいてきていた。


えっ、今、
こんな状態で!?


す、ストップ!



「……」


「……」


「…おい、」



翔くんから不機嫌な声が聞こえる。



「だ、だって…」



とっさに引っ張って鼻まで持ってきた毛布をどかして翔くんを見上げた。



「だってなんだよ」


「あたし風邪引いてるし…
キスしたら…移る、じゃん」


「キスぐらいで移ったりしねぇよ」


「うつ…」



ちゅっ、と一瞬だけ触れた唇はまた近づいて。



「しょ、」


「ん、」


「まっ、」


「う、」



触れては近づき、触れては近づきを繰り返して言いたいことが話せない。

やっと終わったと思ったら、



「……瑠璃、」



何か言いたそうな声で呼ばれた。



「…移っても知らないからね」



ちらっと翔ちゃんを見れば男っぽい笑顔で。


「瑠璃のだったら別に構わないぜ」



聞いた瞬間顔が熱くなったけど、反応する前に口を塞がれて何も言えなかった。


もう、翔くん
たまにびっくりするくらい
積極的になるから
体が持たないよ


そう思いながらも、翔くんとのキスに溺れた。












翔くんに移っちゃうかも
でも、

そんな心配よりも

キスしよう







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