二人で買い物に行った帰り、鍋の材料が入ったビニール袋を1つずつ持って歩いていた。


翔ちゃんとの夜ご飯なんか久しぶりで、時間を噛みしめるようにゆっくり歩きながら他愛のない話をする。



「ね、食べ終わったら…」



思いついたことを話そうとして翔ちゃんより少し前に出て振り返ると、翔ちゃんの手が近づいて。


その翔ちゃんの顔が、さっきまでとは違って真剣な顔だったから、言うのも忘れてただ翔ちゃんの手を見ていた。



「…瑠璃、」



そのまま手が頬に触れてぴくっと肩が震えてしまった。

顔が近づいてきて、ぎゅっと目をつぶる。


え?
待って、ほんとうに?
でも翔ちゃんアイドルだし…だめだよ




いろいろ考えを巡らすけど、予想してたことはおこらなかった。


触れていた手が頬を一撫でして離れていく。


…あれ?



「睫毛ついてたぜ」



え?と目を開ければ、翔ちゃんはくしゃっと笑っていて、自分でも顔が赤くなっていくのがわかった。


勝手に勘違いして、勝手にどきどきして…すっごく恥ずかしいじゃん、あたし



「…なんか瑠璃、顔赤くねぇか?」


「…翔ちゃんのせいだし」


「はぁ?」



目を合わせることすら恥ずかしくて翔ちゃんの肩におでこを預けて寄りかかった。



「おい、瑠璃?」


「…キス、されるかと思った」

「…」



急に翔ちゃんが黙るから恐る恐る顔を上げれば、



ちゅ、



と唇の柔らかい感触と共に小さくリップ音。



「…」


「…、」


「しちまったな、キス」



意地悪そうな顔で笑う翔ちゃん。



「だっ、え、翔ちゃ…」


「大丈夫だって
眼鏡してるし、フード被ってるし」



あたしの言いたいことが分かったのか、笑いながら言う。



「それより、
速く帰ってゆっくりしようぜ」


キスしたりないしな

珍しく艶のかかった声で囁かれて肩が跳ねる。



「…ばか翔」



少し高い位置にある空色の瞳を睨みながら、翔ちゃんの腕に自分の絡めた。







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