「…っ」



ふいに、力いっぱい心臓を握られたかのような痛みを感じた。


なんで、
最近なかったのに、
ここで倒れる訳には、



ただただ足を踏ん張って。
爪が食い込むくらい拳を握りしめて。
冷たい汗が出るのを運動したせいだと言い繕って。

そうしてやり過ごそうとした。


それなのに、



「翔ちゃんっ!」



何もかもを投げ出して、青い顔で走ってくる瑠璃を見たらふっと力が抜けて、体制が崩れるのに抵抗出来ないまま、目の前は黒に染まった。
















「…ん、」



ぼんやりと見える、白い天井。
ここ…病院?


グワングワンと痛むせいでよく働かない頭でも、ここ何処、とは思わなかった。
幼いころからの経験で。


ああ、俺、病院に連れ戻されたのかな…
夢をまだ叶えてないのに
あいつを守りたいって、自覚したばかりなのに


ぼんやりと白い天井を見ながら頭に浮かぶのは、明るい、花のような笑顔だけ。






「翔ちゃん、…起きてる?」


俺、とうとう幻聴まで…


ゆるゆると入口のほうへ顔を向ける。



「…っ、翔ちゃんっ」


「…瑠璃?」



ほんもの…か?

思わず駆け寄ってくる瑠璃を凝視しながら起き上がった。



「翔ちゃん、翔ちゃん、翔ちゃんっ」



ベッドの横まで来た瑠璃は俺に抱きつく。

服ごしでも感じられる、体温。

…ほんもの、だ



「よかった…」


「ん…?」


「翔ちゃん、息してる」



瑠璃は抱きついてた腕を緩めて目線を合わせると、潤んでいた瞳からぽろっと雫が零れ落ちた。
一粒零れれば次々にぽろぽろと零れていく。


倒れたとき、喉が引きつって上手く酸素が取り込めず、一度呼吸が止まったらしい。

すぐにまた始まったらしいけど。



「…ごめん」



目をこする瑠璃の手を掴んでおろすと、今度は俺が瑠璃を抱き寄せた。


小さくしゃくりあげて泣く瑠璃の華奢な肩は震えていて、だいぶ心配をかけたんだな、と思う。



「ごめんな」



鼻を擦りよせると瑠璃も擦りよせてくる。
そのまま触れるだけのキスをした。



「…だめ、許してあげない」



すぐにまた唇が重なる。
ぺろ、と舐められてびっくりしながらも薄く口を開くとそろりと舌を入れてきた。

いつもは俺からするだけでも照れて、自分からなんてしてこないのに…


瑠璃の甘い香りでクラクラして、考えるのは止めた。


しばらくすると唇が離れて銀の糸が伸びる。
口の周りを拭うと真っ赤な顔で瑠璃は言った。



「翔ちゃんの呼吸を奪っていいのは、あたしだけのはずでしょう?」



涙とかでぐしゃぐしゃな顔でもかわいいと思える。
どうしようもなく愛しいと思える。

重傷だな、俺。



「俺が奪い返すけどな」



そう言って笑うと、噛みつくようにキスをした。







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