初めて会ったのは、公園。

塾の帰りで通りかかったとき、かすかな歌声が聞こえてきて、思わず足を止めた。

その歌声がまだ拙いんだけど、まっすぐで、しなやかで、一生懸命だったから。



その人は唯一電灯の光があたっているブランコに座って、目を瞑って歌っていた。

蜂蜜色の髪がきらきら、きれい。


あたしがその歌声に吸い寄せられるように近づくと、足音に気づいて目を開く。


びっくりしたような顔で、だけどキョトンとともしていて、あたしを見つめる碧い、瞳。


でもそんなことは気にならず、あたしは胸いっぱいの気持ちを伝えた。



「すごいですね、歌っ!」


「へっ!?」


「なんか心に響きます!のびやかで、まっすぐで!あなたの歌、すきですっ!」


「…」


「あ…、すいません、いきなり…でもどうしても言いたくて…」


「あ、いや、サンキューな」



整った顔がくしゃっと笑う。
きゅっと心臓が掴まれた気がした。



それからしばらく話していてわかったことは1歳年上で早乙女学園の生徒だということと、来栖翔っていう名前。



「…あ、もう11時すぎてる」

気づくと30分ぐらい話し込んでいた。



「うぉ!わりぃ!」


「あ、大丈夫
じゃあ、歌、頑張ってね!」



そう言って自転車に乗り込むと、



「危ないだろ、家どっちだよ」


翔くんは自然な動作でブランコから立ち上がると、横に並んだ。



「あ、えっ、その…」


「送ってやるよ」


「あ、大丈夫だよ」


「いや、送る
ここで一人で帰らせたら男が廃るだろ!」


「じゃあ…ありがとう!」


「おぅっ!」



また二人で話しながら帰るため、自転車を降りて。



しばらくすると帰り着いた家。塾の帰りは、遅くなるのなんて普通だから、親は心配なんかしてない。



「あ、ここなんだ
わざわざ送ってくれてありがとう!」


「いや、男として当たり前だからな!」


「ふふっ、かっこいいですなぁー」


「おい、ちゃかすなよ!」


「ごめんごめん、
でもほんとにありがとう
…これからも公園で練習したりする?」


「おぅ、日によるけどするぜ!」


「じゃあまた来るね!」


「あぁ、待ってる!」



公園で別れて終わり、だと思っていたのに、また会える、と思うと嬉しくなる。

「ばいばいっ!」


「じゃあな!」



お互い笑顔で手を振って別れた。


空にはきれいな星が輝いていた。




もう恋は
始まっていた












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