きみの優しさが苦しい [ 8/11 ]
「センパイっ 今日一緒に帰りませんか!?」
「ごめん、沢田くん 今日も用事があるんだ」
「わかりました じゃあ明日、また来ます!」
もうこれで10回目。
毎日休み時間や放課後に先輩のクラスへ来ている俺は、もう先輩のクラスの人から覚えられた。
「今日もだめだったな」
「頑張って」
「ここまで頑張るやつ初めて見るな」
「私と付き合いなよー」
笑いながら次々と肩を叩いてくる先輩たちに囲まれてるうちに先輩はそそくさと帰っていって。
…先輩
前の、隣で喋り合ってたのが大昔のことのように遠く感じた。
今では後ろ姿ばかり見ている気がする。
「…はぁ」
感じ悪かったかなぁ…
毎日毎日、クラスまで来る沢田くん。
誘いを断り続けてるのに笑ってくれる沢田くん。
…ごめんね
歩きながら考えていると、
「ちゃおっす」
ふいに後ろから声がした。
「え?」
後ろにちょこんと立っていたのは、小さな体には似合わない黒いスーツを着た赤ちゃん。
「ちゃおっす、て… たしかイタリアの?」
「そうだぞ」
「わぁ! ちっちゃいのに知ってるなんてすごいねぇ 名前は?」
「リボーンだぞ ツナの弟だ」
「リボーンくんね …ツナ?」
なんか聞き覚えのあるような呼び名。
でも私の周りにはツナ、て名前の人いないし…。
「沢田綱吉だぞ」
沢田くん!
そっか、あだ名がツナて言ってたっけ。
少し胸が跳ねたのは気づかないふり。
「ひとりでどうしたの? 迷子?」
「違うぞ 春、お前に会いに来たんだ」
「…私に?」 「ツナはあれでもいいやつだろ たとえ春がまだ忘れられないとしても、あのこと、話してやるくらいいいんじゃねぇのか」
「…リボーンくん、知ってるの?」
あまり人には、知られてないはずなのに。
毎日毎日、貼り付けた笑顔の裏で沢田くんに笑いかけて、傷つけて、嘘ついて。
下手すれば、沢田くんの前で泣いてしまいそうになって。
でもそのたび、泣いたらだめだと自分を叱咤して。
そうやって沢田くんに必死で隠してきたことを、なんでリボーンくんが知ってるの?
「…ツナが知らないままでは、あまりにかわいそうだ」
「でもっ…言わない方が 「ツナのためにならない ツナをさらに傷つけるだけだ」
「…わかった 言ってみる」
リボーンくんは小さく笑うと、どこかへ歩いていった。
でもギリギリまで、
ギリギリまで言わない。
あの日の前日のクリスマスに、
沢田くんにだけ、言う。
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