満たされたあの日のまま、終われたら良かった [ 6/11 ]






「私の話、聞いてくれる…?───」



か細い声、
震える肩、
強く握った小さな拳、

もう、なにもかもが痛々しかった。



「…はい」










「私が1年生のとき、付き合ってる人がいたの…」




先輩はポツリポツリと、ゆっくり言葉を紡ぎ出した。




「その人のことが大好きで、毎日がとても幸せだった
これからもずっと、一緒にいるんだと思ってた

…あの日は映画を見に行ったんだ」




その話は、俺の予想を越えていた。




「映画を見終わって、また行こうね、て話してたときだった
大型トラックが突っ込んできたの
…ちょうどさっきみたいに
突っ込んできたんじゃないけどね

で彼は私を庇って、

意識不明の重傷
…でも」






ふっ、と先輩の目線が下がる。



あ…
その彼氏は、


もう駄目だったんだ





「その6日後「もういいです!」



思わず先輩の肩を掴んで叫んだ。




「沢田く「辛いことは、辛いことでいいんです
いつか思い出したとき、穏やかな心で受け入れるようになってたらいいんです
無理に片づけようとして、泣かなくていいんです
先輩が笑っているほうが、その彼氏さんも喜びます

…もう、一人で抱え込まなくていいんです」




真っすぐ先輩の目を見て、言う。


もう2年も経つのに、
先輩は生きてて、その彼氏さんは亡くなってるのに、
いや、亡くなってるからこそ、
未だにその辛い出来事に囚われている先輩が、



心から笑えるように、

想いをこめて言った。




「俺は笑顔の先輩が好きです
その彼氏さんだって、俺と同じはずなんです

…もう、笑っていいんです」


「…っ…、うん」




先輩は目に涙を溜めて、俺にすがりついてきた。


俺は、先輩の温もりを確かめるように、抱きしめた。












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