さよならというラブレター [ 10/11 ]






「わわっ、もうこんな時間
行ってきまーすっ」

「あらツっくんどこかいくの?」

「うんっ」

「7時には帰ってきなさいよー」



母さんの言葉に返事せずに家を飛び出た。


先輩との待ち合わせが1時。
今時計を見たら12時50分。

待ち合わせ場所の図書館まで少なくとも15分はかかる。


やべー
完全に遅刻だよ













「すいませんっ、先輩」


図書館の前についた。
時間は1時6分だった。

近くにあるベンチに座る。



私服だ…
当たり前だけど



白いクリーム色の少し大きいニットに黒いレースのスカート、そしてふわふわファーがついてるブーツ。

赤いマフラーは鼻のところまで覆っている。


かわいい

それしか出てこない。



「大丈夫
長い時間待ってたわけじゃないから」



喋るときに覗いた鼻、緩く弧を描く口。

こうして喋るのはずいぶん久しぶりな気がして、笑顔を見れたことが嬉しくなる。



「でも鼻が赤くなってます」



だからなのか、思わず先輩の鼻に触れてしまった。



「すいま…」

「沢田くんの指あったかーい」


はっとして手を引っ込めようとすると気持ちよさそうに目を細める先輩がいて。



「…好きです」



って思わず。

なんか俺、こんなの多いな



「…沢田くん」


「はい」



俺の手を握り、太股の上に下ろすと、真剣に見つめてくる先輩の瞳。

告白の返事とか、そういうことを言う雰囲気ではない。



「私ね、
…明日から外国に行くんだ」


「え…?」



お父さんの仕事の都合だとか、先輩の最終的な夢が外国でのある仕事だとか、

先輩はいろんなことを話しているけど、俺の頭はついていけなかった。

ただ、先輩の吐く息が白いなぁと思った。



「沢田くん、聞いてる?」


「…」


「沢田くん?」


「何で…そんな、いきなり…」


力なく言った俺に、先輩は困ったような笑みを浮かべる。



「…ごめんね、」
でも、私は沢田くんには言わないで行くつもりだったんだ」


「…そのほうが、俺は辛いです
言ってくれて、
俺に言うために時間を作ってくれて、
ありがとうございます」


泣きそうになるのを、拳を握りしめて我慢する。

明日が出発ということは、会えるのは今日は最後だろうから。
先輩をちゃんと見とかないと。



「…やっぱ好きだなぁ」


ふいに先輩が呟いた。

あまりに小さい声でよく聞こえなかった。



「え?」


「…なんでもないよ
あのね、沢田くん
私沢田くんにいっぱい貰ったんだ
─嬉しいこと、楽しいこと、苦しいこと、」


「俺は、苦しい想いなんてして欲しくありません…」


「沢田くんが言うような苦しいことじゃないの」



わけがわからなくて首を傾げる俺を先輩は見つめる。



「恋する、苦しい気持ち」



え、と俺は耳を疑う。



「それ、どういう…」


「ありがとう」



先輩は綺麗に笑った。



「私を好きになってくれて、ありがとう」



あまりに綺麗な笑顔に見とれていると先輩がつけてたマフラーを取って俺の首にかけた。

そのまま先輩の顔が近づいてくる。


先輩が、マフラーが顔を両側からはさむように持っていて周りからは見えないけど、キスをされた。


触れるだけの、短いキス。

でも長い長い、キス。



先輩の触れている手や、唇だけが外の冷たい空気から遮断されたように暖かかった。




やがて先輩がゆっくり離れていって。



「…ばいばい、沢田くん」



先輩のマフラーを俺の首にかけたまま、背を向けて歩いて言った。


その後ろ姿は、泣きたくなるほど綺麗な、凛とした姿だった。











泣きたくなったら空を見るよ

そして沢田くんを思い出して笑うの



沢田くん、

好きだよ









家に帰った後、いつの間にかポケットに入っていた手紙には、そう書いてあった。








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