「では、3次テストを始めます
先に皆さんにはこちらが用意した服を着てもらっていると思います
名札番号の早い順からしますので2番さんからです
次の人はここに立って、他の人は椅子に座っていてください」


てきぱきと始める準備や説明をされ、あたしの緊張の糸は張り詰めていく。


間にあったお昼休憩では徐々に緊張してきて、あまりお昼ご飯が食べれなかった。



おなかいたい…
あー、待ってる時間がつらいよぅ



キリキリと痛みを訴えるお腹を押さえながら近くにあった椅子に座る。


あたしの順番は11番目
まだ時間があるからそれまでに治まるといいけど…

とりあえず、自分の番がくるまで他の人のカメラテストを見て勉強しよ!




そして始まった3次テスト。

唯ちゃんはもちろん、テストを受ける人みんな、すごかった。

何人もの審査員の視線があるなか、堂々としていて。
用意された服が綺麗に見えるようにポーズをとって。

あたしなんかが3次テストに受かったのが不思議なくらい。



そんなことを思っていたらあっという間に次があたしの番。



平静を装って立ったけど足は震えて。


どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、

それだけが頭を回る。



「次、36番、橋本梨唯さん」


「はい…」



声が震える。
足がふらつく。
心臓がうるさいくらいに早い。

ふらふらと歩いていくと、ふいに唯ちゃんと目があった。


あたし以外に聞こえないくらいの翔くんの声で「大丈夫、」と力強く囁いて。


少しだけ体が軽くなる。

完全に緊張が取れたわけじゃないけど、小さく頷いて唯ちゃんの隣に立った。



「それじゃあ、開始」



でもやっぱり審査員さんの声を聞くと体が固まって、思うように動けない、笑えない。


1枚…、2枚…、


うまくポーズも取れないままシャッター音が2回響いて、終わりだ…と諦めかけたとき。



「…あ、すみません
データいっぱいになりました
急いで取り替えます」



カメラマンさんが慌てて後ろに置いてある機材のほうを振り返った。



(おいっ!)



すかさず翔くんが気付かれないように声をかけてくる。

(……)


(こっち向けって!)

腕を掴まれて少し強引に翔くんと向き合わされる。

翔くんの顔を見ると、じわっと、一瞬にして目の前がぼやけた。



(翔く、…ごめ…っ)



喋ろうとするあたしを黙らせて、両手を握られる。



(いいか、
無理に笑おうとしなくていい
逆に引きつった笑顔になるから
笑えないなら、笑わなければいいんだ)


(…わかんないよ)



笑わないでどうやってポーズを取るの?
それで受かれるの?



(笑えないことに捕らわれすぎなんだよ
大事なのは笑顔じゃない、
いい写真が取れることだ
気持ちが籠もっていれば、いい写真は撮れる)



大丈夫、と念を押すようにもう一回言われたところでメモリの交換がすんだカメラマンさんが振り返った。



「すみません、じゃあ再開します」



その言葉で緩んだ緊張がまた強まって俯く。

それを繋いだままだった手から感じとったのか、翔くんが握る手に力を込めたのに気づいて顔を上げた。



(大丈夫、俺がついてる)



にこりと、唯ちゃんがしないような男らしい笑顔。
変わらない、ピンクのほっぺ。


そうだよ
あたし、おまもりがあるもん
おそろいのピンクほっぺ

きっと、おまもりが助けてくれる





小さく、だけど力強く、翔くんだけにわかるように頷いて、カメラマンさんに向き合った。



女は度胸!








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