形のいいぷっくりした唇
薄く色付いた頬
おっきな宝石のような碧い瞳
動くたび揺れる蜂蜜色の綺麗な髪
華奢な体
愛らしい顔はいろんな色を持って移り変わり、どんな人の隣にいても、どんな格好をしていても、輝いているんだろう、と。
そう、女のあたしが思うほど、彼女──小傍唯はかわいかった。
今月の始め、読者から投稿された小さな写真が雑誌に載っただけで、爆発的な人気が出て、そのままモデルとなった小傍唯。
人形のような整った顔立ちに、プロフィール非公開ということも手伝って、1か月もたたないうちにCMやテレビに引っ張りだこのカリスマモデルになった。
その唯ちゃんが、今、あたしの目の前でメイクされている。
「唯ちゃん、ちょっと上向いて」
「はい」
「危ないから目閉じてねー」
「はい
ていいながら橋本さん上手だからいつも入らないじゃないですかぁ」
「唯ちゃんの顔の上げぐあいがいいんだよ」
「なんですか、それー」
メイクさんと話しながらクスクス笑う唯ちゃんは、雑誌で見る何倍も可愛くて。
だから、思わず見とれてしまっていた。
「梨唯、」
「…」
「梨唯っ!」
「…あっ、ごめん
何、どうしたの?」
はっとして振り向けば眉毛を吊り上げた友達。
「ごめん、じゃないよ!
もうみんな先行ってるって!」
「わあぁぁっ
ごめんなさいっ」
「もーっ!」
走り出す友達を追いかける前にもう一度、と思って見れば、もう唯ちゃんはいなかった。
あたし、橋本梨唯は最近モデルの卵としてシャイニー事務所に入った。
今日は事務所の葉月さんという女の人に連れられて、あたしと同じ時期に入った仲間たちと、プロの仕事現場を見学しに来たのだ。
「…すごい、」
ポツリと漏らした音はパシャっとカメラを切る音にかき消された。
目の前でポーズをとるのはそれなりに有名なモデルさん。
ポーズは全部様になってるし、カメラマンさんだって休む暇もなく撮り続けている。
だけど、なんというか…なんか違う…?
何だろう、物足りないというか、寂しいというか。
まぁ、あたしが言えたものじゃないんだけど。
と、自分の世界から戻ってくると、大人しくしていた仲間たちが少し後ろを気にするように振り返っているのに気づいた。
あたしも振り返ると、
「わ…、」
唯ちゃんが入ってきたところだった。
お願いしまーす、とすぐに今撮り終わったらしいモデルさんと交代してカメラマンさんに頭を下げる。
すると、それまで和やかだった現場の空気がすっ、と変わった。
そうすればこの空間は、いっきに唯ちゃんのものになる。
「………」
すごい…っ。
パシャと、さっきまでと同じ音が響くのに、感じる空気がちがう。
あまりに違いすぎて言葉を発するのも躊躇われるくらい。
すごい
すごい
すごい
すごい
それしか浮かんでこない。
「…あたしもいつか、」
あんなきらきらになれる日が、くるのかな。
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