「…えぇっ!
このオーディションに受からなかったら事務所クビ!?」


「ほんとーに申し訳ないんだけど、そうなります」






翔くんの話はこうだ。

あたしが唯ちゃんの正体を知ってしまった日、翔くんは躊躇ったけど、一応そのことを社長さんに言ったらしい。

実は同じ事務所だという翔くんの社長といえばあたしの社長でもあるわけで。

かたや売れっ子人気モデル。
かたや入ってきたばかりの駆け出しモデル。
そりゃあ前者のほうが大切なわけで、バレたら女装モデルとして売り出しマース、なんて冗談今更言えるはずがなく。

社長さんはその場であたしのことをクビにしようとしたのだが、翔くんが止めてくれて、最初の条件を突きつけられたらしい。





「ありがとう、翔くん」


「え、何が?」


「社長さん止めてくれたんでしょ?」


「…お前ばかじゃねーの?
そこお礼言うとこじゃねーだろ」


「なんで?」


「だってそれ、俺のせいじゃん」


「誰のせいとかじゃないよ、だから、ありがとう」

これだけは譲れない。
なんと言われても譲らない。
唯ちゃんの正体が翔くんということを知らないままでいたら、きっとこの先、翔くんと友達になる機会はなかったと思うから。



「…どういたしまして」



戸惑ったように頬をかきながら言う翔くんは、なんか照れてるようにも見えた。





(…バレたら女装モデルとして、って社長さんが言うと冗談に聞こえないよね)
(いや、最初は本気だった)
(うそっ、)
(あの目は本気だったと思う
だから俺、ここまで頑張ったんだし)
(…おつかれ様です)







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