「うぅっ…」


「まさか…泣いてんの?
え、ちょ、バラさなければいい話だろ
おい、な、泣くなって」



アタフタし始めた唯ちゃんがさっきの笑顔とは結び付かないような情けない声を出す。



「こんな可愛いのに男なんて…神様理不尽すぎるー」


「だから可愛い言うなって!
つーかそこ!?
ショック受けるとこ違うだろ!」


「…唯ちゃんツッコミうまいねー」


「…もーやだ、こいつマイペースすぎる」



まぁ慣れてるけど…
慣れてるけど、ここで振り回されるとは思わなかった

ぶつぶつと呟く唯ちゃんは遠い目をしていた。



「でも…バラさないのか?」


「え、何で?」


「いや、ふつーバラすだろ?」


「そうかなぁ…
でも唯ちゃんのファンはいっぱいいるよ?
あたしがもしバラしたとしても、喜ぶ人なんていないじゃん
バラさないよ」

「そういうもんか?」


「うん」



絶対的な自信を持って頷いた。


あたしだって唯ちゃんのファンの1人だから、これから雑誌とかテレビで唯ちゃんが見れなくなるのは寂しい。

だったらわざわざバラしたりしないよ。




「あ、」


「…何だよ?」


「あたし、唯ちゃんにどうしても伝えたいことがあって…」


「伝えたいこと?」


「えっと…
今日、唯ちゃんの撮影を見学してて、」


「あ、そういえば見学者が来るって言ってたかも…」


「で、そのときの唯ちゃんがすごく輝いてて、すごくかっこよくて…いや、可愛いんだけど…、とにかくすごかったの!
だから、あたしも唯ちゃんみたいになりたいっ、て思って…、あたしにこんな気持ちを持たせてくれてありがとうございましたっ!」



がー、とまくしたてて言いきれば唯ちゃんはポカンとしてて、でも少し嬉しそうな顔してて。


「あー、いや、こちらこそ、…ありがとな」



次の瞬間には照れくさそうにはにかんでいたから、あたしも嬉しくなった。



「あたし頑張るから…、一生懸命頑張るから…、いつか共演させてください!」


「…おう」


「それまでは、絶対に他の人にバレないでね!
とくに今日みたいにかっこ悪い状態で」


「余計なお世話だあぁぁぁっ!」



唯ちゃんが男の子の大きな声を出したことに慌ててしーっ、と人差し指をたてて口の前に持って行けば、唯ちゃんも口を押さえていて。
二人で今度は静かに笑いあった。

それ自体はあんまり面白くないんだろうけど、なんか楽しくて、二人して笑いが止まらなかった。






ずいぶん笑った後、かすかにあたしを呼ぶ声がした。

しかも数人分。



「…あ、」


「どうした?」


「あたし、みんなを置いて唯ちゃんのところ来ちゃって…」


「はぁ!?
お前、それ忘れちゃだめだろ」


「うん
だから帰らないと
唯ちゃんと仕事出来るように頑張るから、唯ちゃんも頑張ってね」



貰ったお茶と自分のバックを持って言うと、ドアから出て行こうとする。


が、



「……梨唯っ!」



唯ちゃんに呼ばれて振り返る。

そこには少し赤くなった唯ちゃんがいた。



「…翔、」


「え?」



しょう?
いきなり投げられた言葉に訳がわからず首を傾げる。


「俺の本当の名前、
来栖翔だから」


「翔…くん」



呟くように呼べばニパッと明るく笑って。



「おうっじゃあな、梨唯」



仲良くなれたのかな、と思うと心があったかくなる。

手を振ってくれる翔くんに、あたしも手を振り返して、同じように笑ってみせた。



「またね、翔くん」























「どこ行ってたの、探したよー」

「唯ちゃんのとこ」


「はぁぁぁあっ!?」


ほんとは翔くんだけど。

そういえば、来栖翔って聞いたことあるような……?

なんでだろう?

うーん?


「梨唯、それどゆことっ?
梨唯!聞いてるっ!?」


「あ、ごめんごめん
何?」


「あーもう、だから…っ」


ま、いっか
思い出したときで。


「…聞けぇぇーーっ」







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