歯車は、まだ廻らない





「…みんなを助けに行かないと」


ほとんど無意識で呟いた言葉に武とランボが食いついた。



「ダメだ!」


「菜乃佳さん、駄目です」




「…何で」



ムッとして言い返す。

今は動いてるほうが気が紛れて、ツナのことを考えなくてすむのに…。



すると二人は辛そうな顔をして。



「菜乃佳に何かあったらツナに合わせる顔がない」


「そうです!
元はといえば、白蘭は菜乃佳さんを手に入れるためにリングを狙い始めたんですからね」



ツナを引き合いに出して、菜乃佳をここに留めておこうとする二人は詰め寄ってきた。



「菜乃佳、捕まるようなへましないもん!」



一定の距離を保ったまま後ろに一歩、二歩と下がっていき、二人を拒む。



──また、

残っとけって、

菜乃佳は弱い、て言外に言われてる





とうとう背中が壁について、もう下がれない。



「菜乃佳、白ら…」

言うこと聞かない赤ちゃんをあやすように、声をかけてくる二人だけど、その続きはたぶん残酷な内容で、



「もしかしたら菜乃佳がやっつけられるかもしれないし!」



先を言って欲しくなくて、二人の言葉を遮ってまくしたてた。



「菜乃佳さ…」


「もしかしたら誰かが倒してるかもしれないし!」


「そん…」


「いざとなったら菜乃佳が囮になっても…」



いいよ、と。

続くはずだった言葉は、



「菜乃佳っ!」



武の怒鳴り声が遮った。


ビリビリと体に衝撃がきそうなくらいの大音量で、

隣にいたランボなんか耳を押さえて震えながらうずくまっている。




そして武は息を整えてから、いつもと変わらない音量で喋り始める。



「囮になるなんて死んでも言うな!
白蘭は誰も、…ツナでさえも、勝てなかったんだ、俺たちが勝てるわけがないだろ!」



悲痛な武の声が頭に響く。


「──頼むから…、囮になるなんて、そんなこと言うな」



──ずるい、と思った。

そんな、懇願するように言われたら、菜乃佳が我が儘言ってるみたいに思えるじゃん



ただ護られてるのは嫌、

ただ待っとくのは嫌、

みんなが傷つくのは嫌、
ただ、それだけなのに。





みんなと共に戦うことも、

みんなを護ることも、


させてくれない。





みんなの最後を、看取ることも、

みんなが危険なことさえも、


わからない。





菜乃佳だって、ボンゴレファミリーだよ

危険があって当然じゃん、

そんなの、とっくの昔に覚悟できてる。