濡れた瞳の奥には





『そろそろ僕のモノになる気になったかな、と思って』

『もうこの世界に僕より強い者はいないよ』



さっきの白蘭の言葉がずっと頭を回っている。


菜乃佳が白蘭のところに行ったら、みんなは助かる?

白蘭はボンゴレリングを狙っているから、ないって言えば諦める?

そもそもなぜ菜乃佳を欲しがるの?


考えだせばきりがない。

でも、一番心配なのは、みんな。


菜乃佳が返事を出さなかったことで、…殺されてたりしないよね?


みんなのことを考えるたび、
時計が時間を刻むたび、
不安が大きくなっていく。

と、そんなとき、玄関のほうから物音が聞こえた。




「…っ!」



みんなが帰ってきた…?



急いでリビングから出て、玄関のほうへ。



すると

むわっと、硝煙の匂いにまじって鉄の匂い。


いつものみんなが任務から帰ってきたときの匂いと同じなのに、やけに嫌な予感がした。




そして玄関についたとき、



「…ど、したの」



みんな、大した怪我はないのに、服にべっとりと赤黒いシミがあった。

隼人が眉間に皺を寄せて口を開く。



「ほぼ、全滅だ」


「え…?」


「途中から白蘭が現れて、俺たちは狙わずに、部下たちを次々と…」


「…そんな……」



ボンゴレが危ないと分かっててもついてきてくれたみんな、

感謝してもしきれない、とても大切な仲間。


ひとりひとりの顔が浮かんできては闇の中に消えていって。

その闇の奥では白蘭が笑っているような気がした。




「今、ボンゴレファミリーで生存が確認できてるのは、ヴァリアー、門外顧問のやつら、そして俺たちだけだ
…9代目は、行方不明だそうだ」



みんな悲痛な顔して俯き、沈黙が訪れる。



「…おじいちゃん」



菜乃佳はひとり、呟いた。

菜乃佳を拾って、育ててくれたおじいちゃん──ボンゴレ9代目。


穏やかで、優しくて、笑顔が似合う親みたいな人。



「──菜乃佳の、せいだ…」



今日のことも、
今までのことも、

…ツナの死も、

全部、菜乃佳のせいだ…。




ツナに何度も、自分も戦えると言っておきながら、許してもらえなかったからと言って何もしなかった自分に嫌気がさす。

大切な人たちを失った悲しさとか、悔しさとか、もういろいろな感情で心がぐちゃぐちゃで、訳がわからないのに涙がでた。


それからは誰も口を開く人はいなくて、ただただ、菜乃佳のしゃくる音だけが響いていた。








濡れた瞳の奥には

愛する人がいて、
大切な人たちがいて、
嘲笑う白蘭がいた。