開幕の合図





確かここらへんだったはず…。


肩で息をしながら膝に手をついて、周りを見渡す。


黒い物体らしきものはなくて、気のせいだったのかと、少しがっかりする。

何が残念なのかは分からないのだけれども。



…絶対、何かいたのに…。



悔しさに唇を噛んで、アジトに引き返そうとした、とき…。




かさっ、と僅かに、ほんの僅かに音がして。





「…だれかいるでしょ?」



振り返ると確信を持って尋ねた。
それでも返事は返ってこず。


もしかしたら菜乃佳を知らない、奇跡的に生き残ったボンゴレファミリーの人かもしれない、

そう思ってもう一度、口を開いた。


もし警戒して姿を見せないのなら、これで出てきてくれるんじゃないかと期待を込めて。



「…私は菜乃佳
ボンゴレファミリーだから、出てきても…、」



期待どおり、出てきてはくれた。

でも、素早い動きで姿が確認できず、びっくりするくらいの小さな手で口を塞がれた。





「俺に気づくとは流石だな、菜乃佳
しかし10年で良い女に成長したな、わかんなかったぞ
だが無闇に自分の素性をさらすのはだめだな」




そして聞こえる、幼い声だけど流暢な言葉。

しばらく聞いてなかった、だけど間違えるはずのない、声。


溢れる気持ちは涙に変わって外へと出てきた。




「…っ、リボー、ン……」


「…どうした?」



正体がわかるなり泣き出した菜乃佳を見て尋常じゃない雰囲気を感じ取ったのか、聞いてくるリボーンの声が真剣になる。



いろいろあったんだよ。

白蘭のこととか、リングのこととか。

もうどうしたらいいのかわかんないんだよ。

助けて。




言いたいことはいっぱいあるのに、

伝えたいことは数え切れないくらいあるのに、

涙が邪魔してうまく喋れない。

まずおちつけ、肩に乗って小さな手で涙をねぐってくれるリボーンに安心して。

菜乃佳がいないことに気づいて探しにきた2人が来るまで、このリボーンが10年前のリボーンだということも忘れて、ただただ、泣いた。




空には変わらず、綺麗な青が広がっていた。