歯車は、まだ廻らない






* * *





火薬と血の匂いが混ざったような、戦場独特の匂いが鼻をつく場所にその男は立っていた。




「…ねぇ、」


「なんですか?」



男は気だるそうに呼びかけた。
人形のようにぴくりとも動かない、人間だった物を興味なさそうに見ながら。



「アルコバレーノのおしゃぶり、ミルフィオーレリング、ユニはもう手に入れた
あとはボンゴレリングと、──菜乃佳チャンだけ」



そこでふと、死体から目を外して相手を見た。



「早く、10年前の綱吉クンたちこないかな♪」



にぱっ、と無邪気な笑顔。

でも、どこか恐怖を覚える笑顔。



「…10年前の沢田綱吉たちが来てからの未来は見えてないんですか?」



「んー…、僕の力が弱まってきてるのかな
なかなか見えないねぇ
…いきなりそんなこと聞いていて、どうしたの、正チャン」



「いえ、…これからの戦略がたてやすくなると思ったので」



「…ふーん」




一見ただの会話、
でも、すでにこの時点から二人は、熾烈な腹の探り合いをしていたのだった。




「じゃあ帰りましょうか、白蘭さん」




二人が敵どうしになるのは、もう少し、後の話。