「あ、起きた?」


ガチャ、と音がしたほうを見ればそれは沢田さんだった。



「どこかおかしいとこない?
…声以外に」



最後の言葉は少し言いにくそうに付け加えられる。


ふるふると首を振ると、安心したように笑った。



「よかった
えーと…てごめん、ちょっと待っててね」



沢田さんはベットから少し離れると、机の引き出しをガサガサし始めた。


目当ての物を捜し当てたらしく、こっちへ戻ってくると、私に手渡す。



「はい、紙とペン
まずいろいろ質問していい?」

私は受け取って頷く。



「じゃあ声のことだけど…
それは前から?」


"違います
たぶん売られたショックでだと思います"


「んー…
じゃあ早く医者に見せたがいいね
名前は?」


名前は?、
そう聞かれて私は自分の体が少し固くなるのがわかった。


彼といるときは、彼からもらった名前があった。
その前、彼と合う前は、サーカスで芸名しかよばれなかった。

普通に彼からもらった名前を言えばいいんだけど、それは嫌だったから、



"ないんです"



そう書くしかなかった。



「…俺がつけていい?」



控えめに聞いてきた沢田さん。


こくり、と頷くとまた安心したように微笑んだ。



「じゃあ…美海、
美海でいい?」


私の持ってる紙に美海、と書かれる。



"はい"



綺麗な響きが嬉しくて。


笑顔で頷いた。



「よかった
綺麗な銀の髪に碧い眼だし、ね
どこまでも広がる美しい海みたいだから」




…なんでだろう

今まで嫌というほど同じことを言われてきたのに、

この髪と眼の色は無理やりされたのに、



沢田さんが言うと嫌な感じがしなかった。








名前をもらった日


私は今日、新しく生まれる。








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