「…君、誰」
窓から差し込む僅かな月光が私と男を照らし、引き寄せられるかのように目が合った。
外も中も、閑散として何一つ音がしない。
目が合っている、長いような、短いような、不思議な時間の流れの中、男は緩慢な動きで髪をかきあげ口を開く。
「…いつまで人の上に乗ってるつもり?」
「え?」
さっき着地したところ、見てみればそれは男の体で、私は男の上にまたがるような格好で座っている。
「わぁっ!?ごめんなさいっ」
ぱっと飛び退こうとしたがとっさに腕を掴まれたことによって飛び退くことはできなかった。
「…なに?」
「ん?」
「手!降りれないんだけど」
「あぁ!」
不意に笑いかけられて胸が跳ねて顔に熱が集まったが、
「───泥棒猫、捕まえたっ」
次の瞬間にはサーと冷えてしまった。
「…っ、離してっ!」
「いやフツー離さないでしょ」
暴れてもそこは所詮男と女。力で勝てるわけがなく。
寝た状態なのになんでそんなに力が強いの!?
いつの間にか両手を拘束され上手く振り払えない。
振り払うどころか、また視界が逆転して。
「この……きゃっ!?」
あっという間に私は男に押し倒された。
「──っ…」
月光がさらに男を照らし、顔がはっきり見えるようになる。
押し倒されているのに、そんなこと気にならないくらいの、
綺麗な、顔。
男の人に"綺麗"なんて言葉使うのは変だけど、まさにそんな感じ。
何も言えない私に、男が話しかけた。
「──ずいぶん余裕だね
捕まってるのに」
「あっ!!
はーなーしーてっ」
じたばたもがくけどやっぱり勝てない。
「逃がしてあげようか?」
「え?」
差し込む月光を一身に受けて男は妖しく笑った。
私は動きを止めて続きを待つ。
「──俺を満足させることができたら、ね」
次の瞬間には男の顔が目の前にあり、噛みつくようにキスしてきた。
男の匂いがふわっと香る。
頭がくらくらする。
離れて、もう一度近づいてくる顔に気付き、はっとすると思いっきり鳩尾を蹴ってやった。
「いっ!!!」
その間に男の懐からすり抜けて。
「なにが"逃がしてあげようか?"よ、偉そうに!
あんたなんか自力で振り払って逃げれるわよ!」
もう一回蹴ってやって、入ってきた窓から飛び出た。
夜空には月が綺麗に輝いていた。
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